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背後から飛来した氷槍は、一発の無駄もなく、ルイズを縛る触手を断ち切った。 次第に晴れる爆煙のなかを、タバサが駆け寄ってきた。 「タバサ、ナイス!!」 細かいことを任せれば、天下一品のタバサに、キュルケは感謝した。 タバサはそれに答えることなく言った。 「今のうち。早く逃げる」 上空から、タバサの使い魔である風竜のシルフィードが舞い降りてきた。その背中には、意識を失ったコルベールを乗せている。 シルフィードで空へ逃げるということか。 キュルケは地面に倒れ伏すルイズに駆けより、その傷だらけの体をソッと抱き上げた。 しこたま吸血されたせいか、ルイズの体は羽根のように軽かった。 (……かっこ…つけて……) 泣いてる暇はない。 ルイズを抱えたキュルケは、シルフィードの元へ駆け寄った。 タバサはすでにシルフィードに乗って、2人を待っていた。 「お待たせ!!」 颯爽とシルフィードの背に跨ったキュルケを見やると、タバサはシルフィードを空へと飛翔させた。 シルフィードが一声きゅる、と鳴いた。 ひとまずは大丈夫だ……。 騎上で2人は今度の今度こそ肩の力を抜いた。 ………。 2人は下を覗いて、あの得体の知れない、ルイズの使い魔の様子を見た。 タバサに断ち切られた触手は既に八割方回復していた。 一体どこまで化け物じみているのか。 そして次に、肉から伸びる触手が、お互いに複雑に絡みついてき、やがて一つの塊を為した。 人類の原始を連想させるような、おぞましい肉塊は、次第に次第にその形を安定させていき、ついには1人の男の人影となった。 下半身は衣服を身につけていたが、上半身はものの見事に裸だった。 太陽光を受け、まるでそれ自体が輝きを放っているかのようなブロンドの髪。 古代オリエントの彫刻を思わせる、艶めかしいが躍動感の溢れる、均整のとれた肉体。 男のくせに、そいつはまるで女のような、怪しい色気を放っていた。 片膝をつき、地に目を落としている。 よく目を凝らしてみないと分からなかったが、その肉体の首の背中の付け根には、星形のようなアザがあった。 広場に現れた場違いなまでの美男子の姿に、2人は釘付けになった。 あまりにも夢中になっていたので、その腕を1人の少女がすり抜けていることに、キュルケは気づくのが遅れた。 「へ……? あっ……!?」 時すでに遅く、いつの間にか意識を取り戻していたルイズが、シルフィードから転げ落ちるように男めがけて落下をしていった。 12へ
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前ページ次ページ蒼炎の使い魔 翌朝、学院長室ではそれはもう大変な事になっていた。 「土くれのフーケ! 宝物庫を荒らした盗賊が!」 「随分とナメた真似をしてくれる!!」 「衛兵達は何をやっていたんだ!!」 「平民なんぞ当てにはならん!」 ワーワーギャーギャーと教師連中は大声を上げる。 そんな大騒ぎの中、ルイズと使い魔のカイト、 そしてギーシュ達3人と今朝、生徒の話を聞いたコルベールは呆気に取られた表情でその光景を見ていた。 昨晩の事を報告しに学院長室に来たと思ったらこれである。 朝からテンション上がりまくりの教師陣は更にヒートアップしていく。 (あ、倒れた。) とうとう、頭の血管でも切れたのか教師の一人がドサリと倒れた。 しかしその教師は生徒のルイズに影口を叩くような人間だ。 別にいいかと思いながら、皆が冷静になるのを待っている。 さて、この教師陣は一体何をしてるのかというと… 「当直は誰だったんだね!?」 「ミセス・シュヴルーズ! 貴方ではありませんか!」 所謂責任の擦り付け合いである。 こんな事をしてる暇があればさっさと何らかの対策を立てればいいのに。 ルイズはともかくギーシュまでもがそう考えていた。 ミセス・シュヴルーズという女性はあまりの剣幕に泣きながらも謝罪の言葉を述べる。 ギーシュがそれを見て足を出そうとしたが、それはルイズによって止められた。 「何をするんだ?」 「オールド・オスマンが来たわ」 ルイズの言うとおり、奥からオールド・オスマンが登場した。 彼はこの学院の最高責任者だ。 決めるときには決める。 決まらない時はエロイ。 きっとクーンが年を取ったらこんな感じになるのではないだろうか。 …多分。 そんなオスマン氏は今は決まっているらしく、騒ぐ教師陣を宥めはじめた。 そして、昨夜の状況をルイズたちに聞き始めた。 「お主達じゃな、土くれのフーケを目撃したのは。」 ルイズは答える。 「はい、正確に言えば私とギーシュの2人だけですが。」 「ん? 使い魔の…カイト君はどうしたのかね?」 オスマン氏はカイトを不思議そうに見ながらもルイズに問いかけた。 「用事があったとかで一緒には居ませんでした」 ルイズの言葉に周りの教師陣の様子が変わる。 彼女は少し失望した。 何が何でも今のうちに責任者を見つけたいのだろう。 ルイズは小さくため息を吐いてカイトに話しかけた。 「ほら、あんたも言いなさい。」 カイトはその言葉にコクリと頷いて背中からデルフリンガーを取り出した。 「…ハアアアアア」 「ん、ああ。 えっと、自分は昨夜はシエスタって言うメイドの所へ行っていた、ってさ。」 「「なっ!」」 ルイズとギーシュは同時に驚愕の言葉を出した。 「ふうむ…、ならばミスタ・グラモンの方は…?」 突然話を振られたギーシュは驚きつつも努めて冷静に言葉を返した。 「ぼ、僕の使い魔は昨夜は寝ていました。」 オスマン氏はその言葉を聞いてそっと目を閉じる。 そして、謝罪の言葉を2人に掛けた。 「ふむ、すまんかった。疑いを掛けるような真似をして。」 オスマン氏の言葉に2人は頷く。 ルイズは握りこぶしを作っていたが… きっとその握りこぶしはカイトに対する物に違いない。 室内に沈黙が下りる。 そこでふとコルベールが、思い出したかのように口を開いた。 「そういえば…ミス・ロングビルは?」 言われてみれば彼女がいない。 どうしたのだと話を始めた矢先に、扉が開いた。 「土くれのフーケの所在が分かりました!」 それはミス・ロングビルだった。 その瞬間カイトの様子が変わった。 「…!」 いきなり警戒の姿勢になったカイトを横の2人は不思議に思う。 そして、右腕がスーっと光り始めた。 ルイズは慌てながら、カイトを止めた。 「ちょっと馬鹿! 何やってるのよ!」 飽くまで小声でカイトの腕をつかむ。 カイトは少し黙った後、腕の周りに浮かび始めていた光を消した。 そんなやり取りをしてる間に、教師陣の様子が変わった。 「では土くれのフーケはそこに…」 「はい、証言者の話を聞けば間違いないと思います。」 「それでは、早速王室に報告に…」 「しかし、それでは逃げられてしまうぞ!」 騒がしくなってきた教師陣をオスマン氏は止める。 「おほん!!」 そして、ある策を出した。 ならば、こうしよう。 学院内の不始末は学院でつけると。 だから、こちらから少数で奪還しよう。 オスマン氏はそう提案して、有志を募る。 「では、これから捜索隊を編成する。自分がというものは杖を上げよ! 貴族として名を上げたいと思うものはおらんのか!」 オスマン氏が声を出しても教師連中は顔を見合わせるだけだ。 ルイズはそれを見て、杖をあげた。 「ミス・ヴァリエール! ここは教師に「誰も上げないじゃないですか!」…っ!」 堂々と言い放ったルイズにミス・シュブルースは口を閉じた。 そしてそれを見て、ギーシュも杖をあげた。 「ミスタ・グラモン! 貴方まで!」 「な、何考えてるのよ!」 ルイズもこれには戸惑うばかりだ。 ギーシュはその言葉を聴いて、堂々と反論する。 「僕はミス・ヴァリエールとその使い魔君に多大な借りを作ってしまった。 だから、僕は彼女達に力を貸したい!」 本当は名も上げたいのだが、そこら辺は流石に空気を読んだらしい。 ギーシュの顔は所謂、漢の顔になっていた。 「ふむ、では頼むとしようか。」 オスマン氏は志願した2人(カイトは強制)を捜索隊に編成した。 だが、それに異を唱えるものがいた。 コルベールである。 だが、オスマン氏はコルベールを含め全ての教師に口を開いた。 先の決闘でギーシュとカイトの実力は知っている。 圧倒的に負けたとはいえ、あの時のギーシュの力は教師陣に引けを取らないほどの強さだったのだ。 それに、メイジの価値は使い魔を見よという言葉があるように、またルイズの力も未知数だ。 そんな3人相手に勝てる者はいるのか? そう言えば、異を唱える者は誰も居なかった。 「ふむ、ミス・ロングビル。3人を手伝ってやってくれたまえ」 ミス・ロングビルはそれに頷いて、部屋から出て行った。 「さて、決行は今日の夕方じゃ。ミス・ロングビルに迎えに行くように指示を出しておく それと今日の授業は休んでよい。 ただし、準備を怠らずにの。」 授業免除を受けても3人の顔は真剣そのものだった。 オスマン氏はそれに満足げな顔を浮かべると、解散の言葉を放った。 「では、これにて解散じゃ!」 数十分後… 「サボってるみたいで気持ち悪いわね…」 ルイズは学院の外にある野原に座っていた。 部屋にいると落ち着かないのだ。 そんな彼女に一緒に居たギーシュは声を出す。 「まあ、たまにはいいんじゃないかな。」 ギーシュは寝転んで学院を眺めている。 そんなギーシュに彼女は当然の疑問を出した。 「でも、なんであんたまで?」 「決まってるだろ? ここで逃げたら名が廃る…ってね」 彼は命よりも名を惜しめと教えられてきた。 しかし、今の彼にとってそれは言い訳だった。 「僕は力を手に入れて調子に乗った。 それを止めてくれたのは君たち二人だ。」 「…」 「だから本当は、君たちに力を貸したい。 ただそれだけの事だから安心してくれ。 僕だって戦えないわけじゃない。女性を傷つけるのは流儀に反するからね」 それは何時ものような口説きの姿勢ではなく、社交辞令的なものだった。 何時も女性の事と自分の名誉ばかり考えているわけではないらしい。 彼女もそれに好感を覚えたのかギーシュに言葉を掛けた。 「ま、期待してるわ。」 「任せたまえ。」 さて、と2人が立ち上がったのはほぼ同時だった。 2人は後ろの人物に目を向ける。否、睨んだ。 カイトはその様子に?マークを頭に浮かべた。 「さ~て、カイト。少し聞きたいことがあるんだけど。」 「ああ、僕も聞きたいことがあったんだ」 「…?」 「あんた、何でシエスタのところに行ってたのよ!」 「そうだ! 僕の方が先に君と約束しただろう!!」 「それに、あんた何でミス・ロングビルに攻撃しようとしてたのよ!!」 あまりの剣幕にカイトは一歩後ろに下がった。 作戦まであと7時間… 本当に大丈夫なのだろうか… 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
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前ページ次ページ死人の使い魔 第二話 翌朝、目覚めたルイズは寝ぼけながらみたグレイヴに驚いた。 一瞬、何故部屋に死体がなどという考えが頭に浮かぶ。 そんなルイズの考えを知ってか知らずかグレイヴも目を開ける。 私が起きたのがわかったのかしら? 着替えながらそんなことを思う。手伝ってもらうという考えも 浮かんだが、彼をみるとそんな気持ちなどなくなる。 昨日寝る前に家事をさせてみようかなどとも考えていたのだが、 そんなものは似合わないし、自分の目の届かないところで 何かをさせるのは不安な気がした。 着替えが終わったあと改めて彼を観察する。 見た目は二十歳代の後半くらいに見える。 黒髪は肩まで伸びていて肌は浅黒い。服装も変わっている。 少なくともトリステインでは見かけない。 目に付く特徴の一つとして眼鏡もあげられる。眼鏡じたいは珍しい ものではないが、左目のレンズは 黒く、白い十字が描かれている。 伸びた前髪がレンズにかかっていることもあり左目を見ることはできない。 ただそのレンズの奥をのぞこうとは思わなかった。 その目を通るように大きな傷跡が縦に刻まれていたからだ。 もしかしたらレンズの奥の左目は無いかも。 頼んでみれば眼鏡を外してくれそうだったが、確かめる勇気はなかった。 「ついてきて」 朝の準備を終えたあと、彼に声をかける。 彼が立ち上がり鞄を手に持つ。 かなりの長身だ、そして猫背で歩いている。 それがまた多少の不気味さを出していた。 「それ持っていくの? まあいいわ、よっぽど大事なものなのね」 アタッシュケースの中身を理解せずに気軽に許可を出す。 ケルベロスがどういうものかを知っていれば 許可は出さなかったかもしれないが。 ルイズとグレイヴが部屋を出るとちょうどキュルケが部屋から出てきた。 キュルケにグレイヴのことを平民の使い魔だとからかわれる。 「なんであんたは私が、へ、平民を呼び出したのを知っているのよ」 本当は平民じゃないのにと真実を言えない悔しさを混ぜながら答える。 それにグレイヴのことは学院長とコルベール先生しか知らないはずだ。 「あら、結構うわさになっているわよ。ゼロのルイズが平民を召喚したって」 ゼロと平民を強調しながらキュルケが答える。 「昨日あなたが呼んだ箱の中身を気にしている人が結構いてね、こっそり のぞいていたらしいわよ。立派なのは入れ物だけだったわね、残念ねルイズ」 そんな言葉のあとにキュルケの使い魔の自慢が始まった。 サラマンダーでフレイムというらしい。悔しいが立派だ。 彼女の属性にも合っている。素直に認めるのはしゃくだが。 不意にキュルケがグレイヴに名前を尋ねた。 「あなた、お名前は?」 「……………………」 答えはない。 あわてて答える。 「彼グレイヴっていうの、それと喋れないの」 キュルケは驚いた顔をしたあと、残念ねと言い、 お先に失礼と サラマンダーを連れて去っていった。 「なによあの女、自分がサラマンダーを召喚したからって」 一人で愚痴る。グレイヴは相変わらずだった。 食堂に着きグレイヴに声をかける。 「そういえばあんた何を食べるの?」 人と同じもの?それとももっと別の何かだろうか? そもそも食事は必要なのか? とりあえず隣の席に使用人用の食事を用意してもらっている。 その席にグレイヴを座らせるが食事をする気配はなかった。 「喋れないのって本当に不便ね」 私の言っていること理解しているのかしら? たまたま従っているように見えるだけで実は、 意志の疎通はできていないのではと不安になる。 授業が始まる前ミセス・シュヴルーズがグレイヴについて指摘したせいで、 またゼロのルイズだの平民の使い魔だのとからかわれた。 からかった生徒に反論しながら思う、彼はただの平民じゃない! と。 彼が喋れて自分の正体を説明できれば、きっとゼロの二つ名も 平民の使い魔という評価も返上できるのに。 ミセス・シュヴルーズが騒ぎを収め授業を始めた。 先生の『錬金』の授業を聞き流しながらグレイヴのことを見る。 私は魔法を使えない。正確には使おうとすると爆発が起きる。 そのためゼロと呼ばれているのだがその分、いやそれ故に 座学のほうは頑張っているのだ。今日の講義も予習は済んでいる。 そもそもグレイヴは何者なんだろう? ミスタ・コルベールが言うには魔法以外の技術で作られた ガーゴイルらしいが、実際はどうなんだろう? 案外ただの平民だったらどうしよう。 などと考えていたらいつの間にか授業は終わっていた。 その日のコルベールは興奮していた。まだ触れたことのない未知の技術、 それも非常に高度な。その技術に触れることができるのだ。 そのための準備は昨日のうちにしておいた。といってもトレーラーを 自分の研究室の近くに運んだだけなのだが、それが非常に大変だった。 タイヤがついているからと馬でひいてみたが 馬ではひけないくらい重く、 学院の教師達に応援を頼みやっと運んだのだ。 はやる気持ちを抑えトレーラーに乗り込む。 やはり素晴らしい。 目を輝かせながら中を調べ始めるのだった。 昼食の時間になりグレイヴと食堂に向かうルイズだったが、 ふと思いついたように言う。 「あんた食事はいらないんでしょう?」 うなずくグレイヴ。 「なら部屋で待ってなさい。あとで迎えにいくから。部屋まで一人で帰れる?」 再びうなずき、グレイヴは部屋の方へ歩き出した。 一人で行動させるということに多少の不安はあったが、部屋に戻るくらいは 大丈夫だろう。 食堂にいて何も食べないのは不自然だ。周囲の人にとって彼は ただの平民なのだから。 食事が終わりデザートを食べているが、またグレイヴのことをぼんやりと 考えていた。 最後の一口をというとき、何やら後ろが騒がしかった。少し耳を傾けて みるとギーシュが一年生の女子と揉めているらしかった。 頬をひっぱたく音が聞こえたが、ルイズにはどうでもよかった。 最後の一口を食べながら再び考えに沈む。ふと目をやるとギーシュが モンモラシーに 頭からワインをかけられていた。 そのあとギーシュの友人らしき人物がギーシュに謝っているのが見えた。 「すまないギーシュ、壜を拾ったばかりに」 心底どうでもよかった。 デザートを食べ終えたのでルイズは食堂をあとにした。 ルイズがグレイヴを迎えにいくとグレイヴが部屋の前に 立っているのが 見えた。 もしかして扉開けれないのかしら? そこで気づく、鍵をかけていたことに。 でも鍵がかかっていたなら私のところに来ればいいのに。 しかし扉を開けようとして開かずに立ち尽くすグレイヴを 想像して、少し可笑しくなった。 よく見れば少し不機嫌なようにも見える。 部屋の鍵くらい持たせていいかしら? 食事のたびに部屋の前で立たせるのは可哀想な気がした。 言うことには素直に従うし、鍵くらいなら渡してもいいだろう。 あまり考えずに決断する。 時間を確認すると授業にはまだ時間があった。 ミスタ・コルベールに会いに行こうかしら。何か分かったかもしれないし。 「グレイヴ、ついてきなさい」 トレーラーの中にコルベールはいた。 朝からずっと休憩も取らずに中を調べていた。 中に入ってきたルイズとグレイヴをみて、ため息をついて言う。 「素晴らしい技術です。いったいどこで作られたのか、想像もつきません」 それからいかにこれらが素晴らしいかを興奮しながら語り始める。 ルイズには難しいことは分からなかったが、とにかく凄い ということは 伝わった。 改めてみると使い方の分からないものばかりだ。 奥のイスを見る。 あそこにグレイヴは座っていたのよね。 するとコルベールが気になることがありますと イスまで二人を連れて行く。 コルベールの顔を見ると強ばった顔をしていた。 このイスに繋がっていたパイプを覚えていますか? と尋ねられる。 このパイプがはずれグレイヴは目を開いたのだ。 記憶に強く残っている。 「私もパイプのことは記憶に残っていて調べてみました。 そうするとそのパイプの先には血液、それも恐らくですが人間の 血液がありました。彼は血液で動いているのかもしれません」 それはチェンバーと呼ばれるもので、血液を補給するものではなく、 交換するための道具だったのだが、コルベールにもそこまでは 分からなかった。 ルイズの頭の中には吸血鬼という考えが浮かぶ。 しかしその考えが聞こえたかのようにコルベールは否定した。 「元が吸血鬼という可能性はありますが、彼は吸血鬼ではないと思います。 少なくとも一般に知られている吸血鬼ではありません。吸血鬼の特徴と あまりにかけ離れすぎています」 「じゃあ、彼は一体なんなんです?」 「分からないですが、ガーゴイルのようなもので間違いはないと思います。 人の血液で動くというのがつきますが」 「グレイヴは人間を襲うんですか?」 怯えながら尋ねる。 「分かりません。ただ当分は大丈夫だと思います。 まだここに大量の血液が残っていますので。 どうやって集めたのかは分かりませんが」 ルイズには嫌な考えがというか、嫌な考えしか浮かばない。 「まあこれからも彼と付き合っていくなら、何らかの方法を考えなければ ならないでしょう」 しかしと続けまたこの技術に対する賞賛になる。 「新鮮な血液を長期にわたり保存する方法はないのですが、 これはそれを可能にしています」 血液のパックをみながら言う。 「本当に彼が喋れないのが残念です、是非とも話を聞きたかった」 ルイズはコルベールの態度が気にかかり尋ねる。 「あのグレイヴのことは恐くないんですか?」 彼は人間の血液で動く、いわば化物のようなものだ。 それなのにあまりに能天気なようにみえる。 「まったく怖くないといったら、嘘になりますがね」 少し微笑みながら言う。 「しかし私は彼に何かをされたわけではないし、 これからも何かをされるとは思えない」 でもとルイズが言う。 「言いたいことは分かりますよ、しかしですね、この技術をみてください。 血液を新鮮な状態で保存する。確かに気持ちのいいことではありません。 しかしこの技術が実用化されたら将来多くの人が助かる可能性が出てきます。 技術というのは扱う人しだいです。彼についても同じことが言えるのでは ないでしょうか?」 それを聞いてルイズは思う。 そうよ主人の私がしっかりグレイヴの手綱を握っていればいいのよ。 気持ちがかなり楽になる。 しかしそのためには人間の血液、もしくはそれに代わるものを 見つけなければならないのだ。そこで気づく。 「あのグレイヴはいつ、どれくらいの血液を必要をしているのですか?」 「分かりません」 答えはあっさりしたものだった。 「必要になったら彼が教えてくれるでしょう。量については一度目の ときに計測しましょう。あと、このことについても皆には秘密ですよ、 私も学院長にしか報告しません」 「分かっています」 うなずきながらルイズは答える。 しかし秘密ばかりが増える。 それもこれもみんなグレイヴのせいだと、少し疲れた顔をしながら 彼のほうをみる。 すごい重要な話をしていたのに相変わらずの無表情だった。 しかし釘だけはさしておかなければ。 「いい、あんたの血液に関しては私が何とかしてあげるから、 絶対、ぜ~ったいに人を襲ったら駄目だからね」 グレイヴはうなずく。 本当に分かってんのかしら。ため息をつきながら思う。 しかし正体はどうであれ、彼は私の使い魔なのだ。 私がしっかりしなくては。 再びそう強く思った。 前ページ次ページ死人の使い魔
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反省する使い魔! 第十四話「追跡計画中計画実行中」 音石明はこの世界でルイズの使い魔を続けている内に 何度も同じ疑問を自分の頭のなかで浮かべていたことがある。 別によ~~、このオレがわざわざルイズみてぇな やかましい小娘に仕える必要なんて本当はどこにもねぇんぜぇ~~? 仮にだ、ルイズに義理みてぇなモンがあったとしよう。 オレがそんなモンわざわざ守ると思うかぁ? オレは御伽噺や漫画に出てくるような 義理堅い勇者野郎でもなんでもねぇんだよぉ~~~~……………。 しかしだ!よく考えてみてくれよ。俺は刑務所で三年の月日を費やした。 三年だ!たったの三年!! あの杜王町で俺がやったことがたった三年で許されるだとぉ~~~ッ!? わざわざ殺人まで覚悟してやった俺のあの行いが たった三年で許されるような安っぽいモノだとでも思ってんのかッ!! はやく出所できたんだから得だとかそういう問題じゃねぇ! 俺は納得したいんだよ! 三年前俺は間違いなく罪を犯した。 そして刑務所を出たと思ったら、今度はワケのわからねぇ世界で 小娘のお守りときたもんだ。まったくお笑いだぜ………。 最初にルイズの使い魔になれという要求を承諾したのも はっきり言っちまえば召喚の時にクラスメイトから バカにされてたルイズに対してのくだらんねぇ同情からだった。 だがルイズを見ていくうちにわかったことがある。 ルイズは魔法が使えない魔法使いだ、 どんな魔法を使ってもお決まりに爆発する。 クラスメイトの連中はそんなルイズを見下していたがよぉ あの爆発は使い方によっちゃあ間違いなく兇器になる。 このままじゃルイズはいずれ、 自分の中で押さえ込んでいる劣等感をクラスメイトを 傷つける武器にしちまう………。 だからよぉ、そんなルイズだからこそ オレを召喚したんじゃねぇかって時々思うんだよ 道を踏み外して過ちを犯すということを知っていて 今なおそんな自分の罪滅ぼしに納得していない俺だからこそな……… そして今、ルイズはやべぇ状況にいる。 なんでも今度の相手は結構名の知れた盗賊らしいじゃねぇか、 そういう奴をやっつけてルイズを守ってやればよ~~~ 少しでも俺の中にあるこのモヤモヤが晴れるかもしれねぇ! だから今はこの目の前のデカブツをぶっ壊すことに集中するぜ!! 「しっかしでけぇーなー、 ギーシュの『ワルキューレ』は2メートルくらいあったが こいつぁ10メートルは超えてんじゃねぇのか?」 ゴーレムから30メートル程の距離をあけて 音石は土くれのフーケの操る巨大ゴーレムを見上げていた。 「まあ、それくらいのほうがやりごたえがあるってもんか?」 「オトイシッ!!」 自分の使い魔の登場にルイズはゴーレムの足元で 歓喜と驚きの声を上げた。 「おいルイズゥ、そこ危ねぇからはやくこっち来い!」 音石はルイズの身を案じ、 自分の元に来るように手招きのジェスチャーを送る。 ルイズもソレに応じ、音石の元に駆け寄ろうとしたが ソレを許すフーケではない! 「おっと、逃がしゃあしないよ!」 先程破壊された腕が回復され、すぐさま元通りになる。 そしてその腕は瞬く間にルイズ目掛けて襲い掛かってきた! しかしその行為を安々許す音石でもない! 「ふっふっふっ生憎とな、そう易々攻撃を当てさせないところが 俺と『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のいいトコなんだぜぇ?」 ゴーレムの上空を飛び回っていたスピットファイヤーが ルイズ目指して滑空を始める。 そのスピードはゴーレムの攻撃速度を圧倒的に上回っていた。 ルイズの近くまで接近すると、スピットファイヤーから レッド・ホット・チリ・ペッパーの腕だけを出現させ、 ルイズのマントを掴み取った。 「いいいいぃぃぃやああああぁぁぁぁっ!!?」 時速150キロという高スピードのなか、 ルイズは悲鳴をあげてマントからぶら下がった形で音石の元まで移動し ゴーレムの攻撃を回避した。 音石の近くまでやってくるとスピットファイヤーのスピードを緩め ルイズを自分の隣に落とすようにレッド・ホット・チリ・ペッパーは手を離した。 【ドスンッ】「キャアッ!」 「ウ~~シッ!ルイズを回収すりゃこっちのもんだぜ あのゴーレムを操ってるフーケってやつはあそこの壁の向こうにある 宝物庫を狙ってんだろ?だったらゴーレムをあそこから動かすって真似は しねぇはずだ、奴自身無駄に時間を喰ってる暇なんてないはずだからな 空中にはキュルケとタバサ、こっちだってスピットファイヤーがあるんだ 本体の俺が攻撃されないように距離も十分にとってある、 今のあの野郎は将棋で言う『詰み』に入ってるっつーわけだぁっ!」 「こ……こ……この馬鹿ギタリストォーーーーッ!!!」 ルイズが音石目掛けて飛び蹴りを放った!! 【ガスッ】「オガァッ!!?」 蹴りはものの見事に音石の横腹に命中した。 「いっててぇぇぇっ!!?いきなりなにすんだコラァッ!!」 「ソレはこっちの台詞よぉ!ご主人様に対してなんて事すんのよっ!! 助けてくれたことには感謝してるけど、もっとマシな方法なかったの!? あの持ち方!!もう少しで首が絞まるトコだったじゃない!!」 「おいバカ!杖をこっち向けんなって!あーするしかなかったんだよ! 仮にマントじゃなく腕や脇から持ち上げたりしたらその長い髪が あのスピットファイヤーのプロペラに巻き込まれかねねぇだろうがっ!」 「ハッ!そうよオトイシッ、説明しなさい! あれは一体何なの!?もしかして竜の子供!?」 オトイシとの会話中にルイズは自分の中にある一番の疑問に気付き、 その疑問にむかって怒鳴るように指差した。 「竜の子供だぁ?そんなんじゃねぇーよぉー、 『スピットファイヤー』 イギリスのスーパーマリン製単発レシプロ単座戦闘機 大戦時にはイギリス空軍をはじめとする連合軍が使用していた戦闘機で ロールス・ロイス製の強力なエンジンを搭載、空気抵抗も少なく その性能はその手のレースで三度も優勝してるほどの優秀さを誇る。 主任設計技師であるR.J.ミッチェルとジョセフ・スミスを 始めとする後継者たちによって設計され、パイロットたちの支持も厚く 1950年代まで23,000機あまりが生産され さまざまな戦場で活躍した…………そのラジコンバージョンだ」 「……………ごめん、あんたが何を言ってるのか理解できないわ」 「………………………………まあいい、話は後だ 今重要なのはあの盗賊フーケなんだからな~~~」 巨大なゴーレムを眺めながら音石は勝利の確信の笑みを浮かべるが ルイズは対照的にどこか腑に落ちない顔をしていた。 しかし音石の予想通り、フーケにとってこの状況は 非常に不味いものだった。 「まずい、非常にやばいわね アレが何かは検討も付かないけど、あの使い魔は厄介だわ しかも制空権を完璧に向こうに取られてる……… あの使い魔が操ってる思わしき鉄の子竜、そしてもう一人、 さっきから距離をとってこっちの様子を伺ってるあの風竜……」 フーケは首を上に傾け、タバサとキュルケを乗せたシルフィードを睨んだ。 「多少の邪魔は想定内だったけど、竜が二体なんて反則だよ! 『フライ』を使って飛んで逃げることもできやしない!」 苛立ちを隠せないフーケだったが、自分の中で無理やり心を落ち着かせ 状況整理と作戦を冷静に練り始める。 (これ以上グズグズしていられない! いずれ学院長や教師連中がやってくる、 その前にこの状況を打破しなければ………ッ! しかしどうする!?連中はこっちの時間が少ない焦りを利用して 距離をとってやがるし、ゴーレムを操る魔力もそろそろ限界に来てる 考えろ!なにか策があるはず………………ッ!?) 思考を張り巡らしているうちにフーケはあることに気付いた。 自分と対峙している竜たちが一向に自分に攻撃してくる様子を 見せていないのだ。まさか!と思い、フーケは咄嗟に音石を見た……。 かなり距離が離れているはずなのに、フーケにはそれがはっきりと見えた。 笑っていた。音石のその表情がすべてを悟っていた! (降参を誘っているつもりかいッ!!? こっちの不利な状況を理解して……ッ!舐めやがってッ!! この『土くれ』のフーケをここまでコケにしやがるなんてっ………!!) ギュゥィィイイイイイイアァァァァンッ! 音石は愛用のギターを絶好調に響かせた。 「ハッハァーッ!よかったなぁルイズ! コレでお前は明日から英雄だぜ、より胸はって学生生活も送れるってわけだぁっ! 実家で病弱だっていうお前の姉貴も喜ぶぜぇっ!ギャハハハハッ!! よっしゃあせっかくだぁ、なにか弾いてやるからリクエストしてみろよ! おっとしまった、この世界の住人のお前じゃリクエストなんて無理だな 仕方ねぇな、だったら俺が選曲して聞かせてやるぜっ! そうだな……………よしっ! 『エアロスミス』の『WALK THIS WAY』あたりでも…………」 (たしかにオトイシの言う通り、この状況は圧倒的にこっちが有利…… でもなんなの!?さっきからわたしのなかで渦巻いている このモヤモヤ感は!?いやな予感がしてならない………ってこと?) 未だルイズが不安を隠せないことも気付かずに、 いつの間にか音石はルイズの隣で……… ズッタンッズッズッタン!と勝利の確信に酔い踊っていた。 「なっ!?この『土くれ』のフーケを前にして踊ってやがるッ!? なんてムカつく奴なんだい!思えばあいつの登場で なにもかもぶち壊しだよっ! 当初の目的だった宝物庫の宝も結局取れまず仕舞い………え!?」 一瞬宝物庫の壁に目を向けたとき、フーケは目を疑った。 なんと壁に『ヒビ』が入っていたのだ! ばかなっ!さっきまでいくらゴーレムで攻撃しても駄目だった 壁にどうして今になってヒビが!?とフーケは疑問に思ったが その原因であるべき正体を思い出した。 「まさか………、あのゼロのルイズがさっき放った爆発でッ!?」 ますます理解不能だった、なぜあのゼロの失敗の爆発でこの壁が? しかし、これは二度とないチャンスであるという事実が そんな疑問を掻き消した。 そして閃いてしまった、この状況を打破する策を………! 「アンタにはもう少し働いてもらうよ!!」 フーケは杖を振り、ゴーレムを再び動かし始めた。 ソレを見た音石が踊りと演奏を止め、行動に移った。 「ゴーレムを動かしやがったか、 その行動………、殺されちまっても文句はねぇモンだと判断するぜっ!」 音石はシルフィードを操っているタバサを見てアイコンタクトを送る。 それを合図にスピットファイヤーとシルフィードは ゴーレムに向かって飛来していった。 ただ一人、自分がなにもしていないことに気付いた ルイズは精一杯の手助けをと思い、音石アドバイスを送った。 「オトイシ!ゴーレムの肩に乗っているフーケ本体を狙うのよ! そうすればあのゴーレムは動かないわ!!」 「それぐらいは言われなくたってわかってるぜぇルイズ! そこらへんの原理はスタンド使いと一緒だからなぁ~!!」 (お願い!わたしのなかのこの予感が、どうかわたしの勘違いであって……!) ルイズは自分の胸に手を当てて、祈った。 生命の予感や察知とはなんとも不思議なものだ。 自分の身にナニかが迫ると無意識のうちに自分の中でそれを感じ取る、 犬や猫などが、飼い主が帰ってくること時にソワソワするのと同じだ。 ルイズは正確にその嫌な予感を的中させてしまった。 なぜなら、その嫌な予感の元凶を作ったのがルイズ本人であるのだから………。 フーケのゴーレムがスピットファイヤーたちを無視して、 宝物庫の壁に拳を飛ばし、なんと壁を粉砕してしまったのだ! 「ナニィッ!?」「そんなっ!?」 音石とキュルケの驚きの声が重なった。 壁がえぐれた部分にゴーレムの肩に乗っていたフーケが飛び移った、 「まずいわ!宝を盗まれてしまうわ!」 キュルケがバッと音石にアイコンタクトを送った、 えぐれた壁の隙間に入っていったフーケを攻撃できるのは 音石が操るスピットファイヤーしかないと判断したからこその合図だ。 音石もそのキュルケの合図には気付いていたが、 一方でゴーレムのある変化にも気付いた。そして驚愕した! 「タバサァッ!!ゴーレムに近づくんじゃねぇっ!! こっちに向かって倒れて来てるぞぉ!!」 それを合図に、シルフィードとスピットファイヤーはすぐさま真上に上昇したが、 30メートル近くあるゴーレムの転倒の衝撃は並なものではない。 凄まじい砂煙が広範囲に広がり始めていった。 地上にいる音石とルイズがそれに巻き込まれはじめたのも当然のことだった。 「伏せろルイズッ!絶対に目をあけるんじゃねぇぞ!!」 「きゃあぁぁぁぁっ!!」 咄嗟の行動だった、目の前まで迫ってきている砂塵に襲われる前に 音石はルイズのマントを引っぺがし、彼女を片手で抱き寄せると 体の体勢を低くし、引っぺがしたマントを二人の体を覆うように被り 迫り来る砂塵を受け流した。 【ビュオオオオォォォォォォ……………】 「オトイシくん、大丈夫かい!?」 マントを覆い被って数分、遠くから聞こえるコルベールの声が聞こえ 音石は覆い被っていたマントから顔を覗くと、 コルベールとオールド・オスマンがこっちに向かってきていた。 そのほかにも大勢の教師や生徒、衛兵がぞろぞろとやってきていた。 「………ふう、おらよルイズ。マント返すぜ 砂埃だらけだが、洗えば取れるよ」 ルイズは「ありがとオトイシ」と礼を言ってマントを受け取ると、 すぐさまオールド・オスマンたちのもとへと駆け寄った。 「ほっほ、ミス・ヴァリエール。 随分と無茶したようじゃが、怪我はないかの?」 「お気遣い感謝いたしますオールド・オスマン ですが大丈夫です、私の使い魔が守ってくれましたから……」 その時一瞬、ルイズは軽く頬を染め誇らしそうな顔をすると すぐにまたスイッチを繰り返した。 「それよりも学院長!たった今緊急事態がッ!」 「ふむ、コルベール君に事情は聞いておる 『土くれ』のフーケ、まさかこのトリスティン魔法学院を狙うとはの…… その上、固定化をかけておいた壁をも打ち破るとはたいした奴じゃわい」 それに対してはルイズも共感した。 固定化の魔法とは、その名の通り。 対象の物質などを時を止めたかのように固定し、 固定された物質は腐ることもなく、壊れることもない。 並みのメイジがかけた固定化ならばそれなりの実力者のメイジでも 破壊することはむずかしくはないが あそこの宝物庫の壁は学院長直々に固定化の魔法をかけているほどのものだ それを破るなんて、フーケとはそれほどの実力者だったとは………と ルイズは少し身震いした。しかしルイズは永遠に知ることはない、 その固定化を打ち破った本当の原因は紛れもなく自分だということを………。 「学院長!」 宝物庫を調べていた教師の一人がフライの魔法で上から降りてきた。 「ほとんどの宝は無事だったのですが、ただひとつ 『破壊の杖』だけがどこにもありません」 「ふぅーむ、フーケめ よりにもよって『破壊の杖』を………、ほかに手掛かりは?」 「はい、この置手紙がひとつ」 「なになに~、『破壊の杖、確かに頂戴しました 土くれのフーケ』か フォフォフォッ、なんとも律儀なもんじゃわい」 口では笑ってはいるオールド・オスマンだが その目は真剣そのものだ、今この老人のなかでは これからどうするかの方針が練りこまれているのだろう。 「ねえオトイシ、あんたのあの竜の子でフーケを探せないの?」 「だから竜じゃなくて………、はぁ……上見てみろ」 そう言われてルイズが顔を上に上げると、スピットファイヤーと シルフィードが学院の上空をグルグルと飛び回っていた。 何人かの教師がスピットファイヤーの姿に「オオッ!?」と驚きの声をあげた。 「さっきからタバサのシルフィードと一緒に探しちゃいるんだが、 なにしろあの砂煙だし、フーケは名の知れた盗賊だからな 見つからないように身を潜めることに関しちゃあ、 向こうのほうが圧倒的上手だ。どうしようもねぇよ……」 スピットファイヤーを地上まで下ろすと、音石は片手でそれを持ち上げると その姿にコルベールは感動と歓喜の声をあげ始めた。 「おお!なんとも素晴らしい!! 見ましたか学院長!?あれほどの文化が彼の故郷には 当たり前のように発達しているのですぞ!」 「コルベール君、君が喜ぶのも理解できるは 今もっとも重要なのは『破壊の杖』を持ち去ったフーケのほうじゃぞ?」 「あっ……こ、これは失礼しました」 どこか残念そうだが興奮を落ち着かせたコルベールだったが、 タイミングを見計らったように、タバサとキュルケを乗せたシルフィードが 降下しはじめ、地上へと舞い降り、そんな二人に音石は声をかけた。 「そっちはどうだったよ?」 「やっぱりだめだったわ、フーケがどっちの方角逃げたかもわからないし 第一こんなに暗いんじゃねぇ………」 「もっともだな、………なあタバサ、お前なら奴をどう探す?」 「………夜明けを待つ、それに情報も…………」 ――夜が明け始め、現在学院長室―― タバサの意見がもっともだと賛成した一同が学院長室に集まっていた。 今ここにいるのは、音石たちとオールド・オスマン、コルベール そして何人かの教師陣たちだった。 「さて………こうして夜が明け始めたのはよいが 周囲を捜索させた衛兵たちの報告はどうなんじゃ、コルベール君?」 「残念ながら……、現在のところそう言った報告はまだ………」 「はっ、衛兵と言えど所詮平民、 平民のような役立たずなどあてにしても仕方ありませんぞ!」 「じゃあテメェはどうにかできんのかよ?」 「なにぃっ!!?」 一人の教師が鼻で笑った言葉に、音石がポツリと嫌味を呟き その教師が音石を睨むが、しかし音石は眼中にないかのように その教師と目を合わせなかった。 「コレコレよさんか二人とも、今はフーケが問題じゃろう しかし、オヌシの今の発言はいささか言葉が過ぎるぞ?」 「………ッ、申し訳…ありません…」 その教師が詫びると、オールド・オスマンはやれやれと息を吐いた。 こんな非常時に相変わらずな教師たちに呆れながら 見渡しているとあることに気付いた。 「おや?ミス・ロングビルの姿が見えんの」 【ガチャッ】「私ならここにいます学院長、ハァッ…、遅れて申し訳ありません」 噂をすればなんとやらだ、 突然扉が開かれ、ミス・ロングビルが息を切らしながら入ってきた。 「おお、心配したぞミス・ロングビル ん?えらく息がきれているようじゃが……なにかあったのかの?」 「はぁ…はぁ…、土くれのフーケの件で…調査していました」 「ふむ、仕事がはやくて助かるのミス・ロングビル」 「お褒めにあずかり光栄です、それで調査の結果なのですが 土くれのフーケの居場所が掴めました」 その言葉に学院長室が一気にどよめきはじめるが オールド・オスマンは落ち着いた物腰と口調で問う。 「ほう、フーケめの居場所をのぉ~~…… 一体それはどうやって調べたのじゃ?」 「はい、実はフーケが破壊の杖を持ち出し 逃亡したところを私が目撃したのです」 周囲のどよめきが一層に増す、ルイズたちもその言葉には驚いた。 しかし音石はなにか引っかかるものを感じていたが、 今は黙ってロングビルの話を聞いておくことにした。 「まさかだと思うがミス・ロングビル……… 君はそのまま…………フーケの後を尾行したのかね?」 「身勝手な行動をお許しくださいオールド・オスマン 学院の衛兵である、『サリー』と『エンリケス』を連れて……… そしてフーケがここから馬で2時間~3時間ほどの とある森の廃屋を拠点にしていたことがわかりました」 「ふ~~~む、ミス・ロングビル…… 叱ってやるのはこの騒ぎが終わってからとしよう………。 しかし『サリー』と『エンリケス』?聞かん名じゃのぉ」 コルベールが手元にあったファイルを開き始める。 どうやらそれは学院に所属する衛兵や使用人などのプロフィールのようだ。 ページをめくっていくと発見したのか、詳細をオールド・オスマンに伝える。 「つい最近この学院に所属したばかりの二人組の衛兵ですね」 「はい、現在フーケが潜んでいる廃屋を見張らしています」 「なんじゃとっ!?ミス・ロングビル! 君はそんな危険なところに衛兵を置いてきたのかッ!? もしもその二人になにかあったらどうするつもりじゃッ!!」 オールド・オスマンが珍しく声を荒げて張り上げ、椅子から立ち上がった。 心優しいこの老人のことだ、危険で凶暴なメイジの近くに 平民でしかない衛兵を置いとくなどどれだけ酷なことか、 それに対して怒っているのだろう。 今まで見たことなかった学院長の怒りの光景に教師たちが動揺し始めた。 しかしコルベールがロングビルをサポートするかのように言葉を挟み その場を落ち着かせようとした。 「お気持ちは理解できますが学院長!彼らのことを思っているのならっ! 今は一刻も早く王宮にこのことを報告して助けを呼ぶべきかとッ!!」 コルベールが間に入ったことによって、 心を落ち着かせたオールド・オスマンは椅子に座りなおした 「そんな悠長な時間もないじゃろう、コルベール君………、 王宮に連絡してからでは時間がかかりすぎる、 よってじゃ!この一件は我々魔法学院内で解決するとしよう そうとなれば早速捜査隊を編成する! 我こそはと思うものは杖をかかげ志を示すがよいッ!!」 しかし残念なことに、この学院の教師たちは 口だけが達者なトーシロの集まりのようなものだ。 教師それぞれが顔を見合すだけで、誰も杖を上げようとはしなかった。 そんな教師たちにオールド・オスマンはますます呆れた溜め息を上げると たった一人、そう……ルイズだけがそのなかで杖をかかげた! 「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて」 シュヴルーズが止めようとしたが、ルイズは牙を剥くように怒鳴り返した。 「誰も杖をかかげようとはしません! ならばわたしがフーケを追います! 元々フーケをみすみす取り逃がした責任はわたしにあります あの場に私はいたのですから!」 「それだったら私たちにもその責任はあるわよヴァリエール? あんたと同じように、私たちだってあそこにいたのだから………」 ルイズに続くように、キュルケとタバサが杖をかかげる。 その行為に次に驚いたのはコルベールだった。 「ミス・テェルプストー!気持ちはわかるがあまりにも危険だッ!! 君たちもあのゴーレムを見ただろう!?」 「お気遣い感謝しますがミスと・コルベール ですがヴァリエールには負けたくありませんので……… ねぇ、タバサ?」 「………別に家名なんてどうでもいい……でも心配」 「ありがとうタバサ、やっぱりあなたは最高の親友だわ!」 キュルケとタバサが友情を深め合う中、教師達は猛反対を開始した。 だがオールド・オスマンが「では君が行くかね?」と問うと、 皆体調不良などを訴えて断る。 オールド・オスマンは勇気ある志願者三人を見て微笑んだ。 「彼女達は、我々より敵を知っている。実際に見ておるのじゃからな その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておる 実力は保証できるじゃろう」 教師達は驚いたようにタバサを見つめ、キュルケも驚いた。 「そんなの初耳よ!?それ本当なのタバサ? なんで黙っていたのよ?教えてくれればよかったのに……」 「騒がしくなるから……」 「ウフッ、もうっ、タバサらしいんだから!」 キュルケが納得とばかりに微笑んだ。 音石が後から聞いた話だが、 『シュヴァリエ』というのは王室から与えられる爵位であり 階級で言えば最下級のものだが、 ルイズ達のような若さで与えられるような生易しいものではないらしい、 しかもシュヴァリエは他の爵位と違い純粋な業績に対して与えられる爵位。 いわば戦果と実力の称号である。 するとオールド・オスマンが話を続ける。 「ミス・ツェルプストーは、 ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、 彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いておるぞ」 キュルケは得意げに髪をかき上げた。 さて次はルイズの番と、オールド・オスマンは視線を向けて、 褒める場所を探し、コホンッと咳払い。 「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した ヴァリエール公爵家の息女で、うむ、それにじゃ…… 将来有望なメイジと聞いておる。 しかもその使い魔は、平民でありながらも あのグラモン元帥の息子である ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという戦績がある」 明らかにルイズよりを音石を褒めている発言に、 ルイズは少しムッとしたが事実だから仕方ない。 音石は思わず少し苦笑してしまった。 「………オトイシくん」 「あん?」 ルイズたちが並んで前に出ている後ろのほうで、 壁にもたれ掛っている音石にオスマンは突然声を掛けた。 「これはこの年寄りからの………いや、学院長であるワシからの頼みじゃ 君も彼女たちと共にフーケを追ってくれんか? 当然、君が望むのであればいくらでも礼は弾む」 「が、学院長ッ!?」 このオールド・オスマンの言葉に教師たちが驚きの声をあげた。 由緒正しき魔法学院の長が、一人の平民……しかも使い魔相手に そのような頼みを言うなどこの世界の常識では考えられないことだった。 だが音石からしてみれば、そのようなことを頼まれてもどうしようもないことだ。 なぜなら、頼まれるまでもないのだ…………。 「オトイシ、あんたは私の使い魔よ」 ルイズという自分の主人がこう言われてしまった以上………。 「まあ、そういうことだジイさん 今のオレはルイズの使い魔、そしてそのルイズがフーケを追う以上 オレが行かねぇわけにもいかねぇだろ? それに『勝算』だってこっちにはある、任せておけよ」 そう言いながら音石は、先程から脇に抱えている スピットファイヤーをつよく握り締めた。 (さっきは油断したが次はそうはいかねぇ…… ルイズたちはああ言ったが、フーケを逃がした一番の理由は オレの過信からきた油断だ……、反省しなくちゃなぁ~~~ 次もヘマ踏まねぇようによ~~~~) 学院の門付近にて、音石とルイズ、キュルケとタバサ、 そしてオスマン、コルベール、ロングビルがそこに集まっていた。 「ミス・ロングビルはフーケの居場所を知っておる故 君らの道案内役として同行させよう、 なによりミス・ロングビル、君には衛兵の二人の件もある ……………わかっておるな?彼女たちを手伝ってやってくれ」 「はい、オールド・オスマン……… もとよりそのつもりです……」 ロングビルの言葉にオスマンは渋るような顔で頷く。 「ふむ、では馬車を用意せんとな………」 「学院長、その馬車なのですが…… 屋根付きの馬車では見通しも限られますし、 なによりいざ何かあった時に動きにくいかと………」 「ふ~む、コルベールくんの意見がもっともじゃな……」 「でしたら屋根のない荷馬車を用意しましょう」 「うむ、任せたぞミス・ロングビル」 そう言って、ロングビルは厩舎小屋へと駆け出していった。 そんなロングビルを見送っていた音石だったが、 そんな彼の上着の裾を突然誰かが引っ張ってきた。 見てみると、引っ張っていたのはタバサだった。 「………質問がある」 「こいつ(スピットファイヤー)のことなら黙秘するが?」 「………………そう……」 表情こそ変えなかったタバサだったが、どこか残念そうな雰囲気で 裾から手を離し、本を読む作業に戻った。 その様子を見ていたキュルケは溜め息をはいた。 (やっぱり教えてくれないか……… オトイシって、ほんと何者なのかしら……… でも彼と一緒にフーケを追えば、少しでも真実に近づくような気がするわね) 「コルベールさん、今更なんだがあんたに頼みが………」 「言わなくてもわかっているよ、それは(スピットファイヤー)君に譲るよ」 コルベールはスピットファイヤーに目を向けそう言ったが さすがにこの発言には音石も驚いた。 あくまで「借りたい」と言うつもりだったのだが まさか譲るとまで言ってくれるとは予想してなかったのだ。 「いいのか!?あんたが大金払って手に入れたモンなんだろ?」 「確かに、しかしオトイシくん。私はとても満足している 君がそれを動かすのを見たとき感動で涙がでそうにもなった…… なにより誇りにすら思っているのだよ私は……… 少しでも君やミス・ヴァリエールの助けになるなら 私は君に手を貸すのを惜しまないよ………」 「…………感謝します、コルベールさん」 音石は目の前の聖人のような男に軽く頭を下げるのだった………。 すると横から見ていたルイズがあるモノに気づき声を掛けてきた 「そういえばオトイシ、あんたそれもっていくつもり?」 「なんでぇ娘っ子、おれ様も一緒にいっちゃあ問題でもあんのかよ?」 ルイズが指差したのは、音石が部屋からもってきた 意思を持つ剣、デルフリンガーの事だった。 「だって別にねぇ~……、オトイシにはレッド・ホット・チリ・ペッパーが あるんだから、わざわざあんたみたいな薄汚い剣持っていかなくても……」 「ひっでぇなっ!あんまりだぜ、そんな言い草ッ!!?」 「事実を言ってるだけでしょうっ!」 自分を挟んでのやかましいいい争いに、 音石はやれやれと呟き二人の間に助け舟を出した。 「まぁ、ルイズが言ってることがもっともなんだがな」 「おいおい相棒、そりゃあねぇよ~~ッ!?」 「だがまあルイズ、ないよりはマシだろ? それにこいつの助けが必要になる状況もあるかもしれねぇしな、 例えば俺がスピット・ファイヤーでフーケのゴーレムを攻撃してる時に フーケ本体がオレ本体を狙ってくるかもしれねぇ………。 手元に武器がありゃ幾分かマシだぜ?ナイフも何本か持ってきたしな」 そう言って音石は、上着の内ポケットに仕舞っているナイフを ルイズにチラつかせた。 内側のナイフをチラつかせている音石の姿が あまりにも様になっていたのにルイズは苦笑いを浮かべるのであった。 「まあ、薄汚いボロ剣ってのは事実だから仕方ねぇがな」 「なに勝手に『ボロ』付け足してんだよっ!? 使い魔、主人そろってひでぇぜお前らッ!!」 デルフの虚しい叫びも、音石とルイズが目を黒い影で塗りつぶし 無視されるのであった。 ミス・ロングビルはまず、荷台を引くための馬を用意するために 厩舎小屋で適度な馬を選んでいた。 本来、大盗賊土くれのフーケを追うような危険な調査では 誰もが不安を隠せない表情を浮かべるのが普通だろう。 しかしこの時彼女の顔は、邪悪な笑みで口元を歪めていた。 「ふっふっふっ、まずは第一段落終了だね……… できれば教師に出てきてほしかったけど、まぁ仕方ないわね この学校の教師たちったら口だけで腑抜けばかりだもの……」 「どうやら計画は順調に進んでるようじゃねぇかフーケ」 「!?」 すると突然、厩舎小屋の奥から声が聞こえてきた。 暗闇で顔こそは見えなかったものの、 ミス・ロングビルもとい土くれのフーケはその声に聞き覚えがあった。 「ッ!?あんた、なんでこんなところにいるんだいっ!? 私が獲物を連れてくるまで持ち場で待機してろって………」 「ヒヒヒヒッ、そう硬いこと言わないでほしぃ~ね~ あんたを捕まえようなんて考えている馬鹿な命知らずがどんなヤツらか ちょいと気になったからよ~~、見に来ただけじゃねぇか~ あんたまさか『土くれ』って ふたつ名のくせして 人のおちゃめも通じねえコチコチのクソ石頭の持ち主って こたあないでしょうね~~~~~?」 暗闇のなかにいる相手の言葉にフーケは苛立ちを覚えるが こいつの人を頭から馬鹿にしたようなしゃべり方は今に始まったことじゃないと 自分に言い聞かせ、怒りを堪えた。 「どうせそっちは馬車なんだからナメクジみてぇにノロノロ来るんだろう? あんたの考えた計画をおれがわざわざめちゃくちゃにするとでも思ったかい? そこらへんはちゃ~~~~~んと考えてるぜぇ~~~~~?」 「………ふんっ、そりゃよかったね。 だったらとっとと持ち場に戻って………」 「いんや~~、おれも最初はそうしようと思ったんだけどなぁ~~…… これだけはあんたに伝えといといたほうがいいかなぁ~~っと思って、 わざわざこんな馬糞くせぇところであんたを待ってやったってわけだぜ?」 「伝えたいこと?」 「ああ、あんたが言ってた妙な使い魔……… ありゃ~~~十中八九『スタンド使い』だぜ 以前あんたは伝説の使い魔ガンダーなんとかの能力とかなんとかって バカづらさげて言ってたがよ~~~………」 その言葉にフーケは身目を見開かせ、驚きを隠せない顔をしていた。 「そうそう、丁度そんな感じのバカづらだぁ~、ヒヒヒヒヒ あんた顔面の表情操作が意外とうまいねぇ~」 「つまりあの使い魔はあんたの世界から召喚されたっていうのかいっ!?」 「ケッ、そこはあえてスルーですか…… まぁ、そういうことになるんだろうなぁ~~~~ あいつの格好、ぶら下げてるギター。間違いなくおれの世界の文化だ しかもギタリストとは………なかなかイカシてると思わねぇかい?」 フーケは爪を歯で噛みながら、なにかを考えふけっていた。 「あんた………あの使い魔を倒せるのかい? あの使い魔、はっきり言ってかなり強力だよ…………」 「モノは考えてから言えやこのボゲ、このおれが負けるとでも思ってんのかよ? もしそうだとしたら、アンタ今からこのガキのションベンくせぇ 学院の医務室に行って、ケツの穴に温度計ブッ刺されたほうが いいって助言してやるぜ?」 「ふんっ、相変わらず減らず口が絶えないやつだよ まあ、それを聞いて安心したよ。 今回の作戦はあんたの働きに掛かってるんだからね」 そういってフーケは相手が潜んでいる暗闇から視線を外し、 馬を二頭選び、厩舎小屋から引っ張り出した。 そして自分が気になっていたことを思い出し、 再度小屋の奥の暗闇に視線を戻した。 「そう言えば、あんたに言われたから攫ってきた衛兵の二人 一体なにに使うんだい?」 しかし、その時には暗闇には誰もおらず、 ただ小屋のなかにいる馬の鳴き声と窓から流れる風の音が 静寂に小さく唸るだけだった………………。
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その日、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは娯楽に飢えていた。 タバサと二人で暇をつぶしていた彼女は、騒ぎを聞きつけると、タバサを伴い真っ先に駆けつけた。 騒ぎを見物するなら、特上席で。 そう考えた彼女は、シルフィードに乗せてもらうことにしたのだ。 タバサはお気に入りの本を読んでいた。 タイトルは 太公望書房刊「今日からあなたも漢方マスター!」(観余頭尼屠尼瑠无(ミョズニトニルン))著 である。 タバサ本来の目的の役にこそ立たなかったものの、素晴らしく実用的な本であるのは間違いなかった。 惜しむらくは、この本が数千年前に書かれたものであり、著者その人に会って話を聞けないことくらいだ。 他の誰でもない、自分の親友のキュルケの頼みだからこそ腰を上げたのだ。 そして彼女達は聞いた。そして見た。 天をも揺るがすようなエールを。 そして、素手でありながら、ついにはメイジをも倒してしまった少女の姿を。 最後の瞬間二人は思わず目を見張った。 メイドの少女が、実際の何倍にも大きく見えたのだ。 そして…… シエスタが目覚めたとき、見知らぬ天井と、心配そうにこちらを見つめている多くの視線があった。 (あれ?ここは?) 確か自分がギーシュという貴族に勝利して、歓声を受けたところまではおぼえている。 しかし、その後の記憶がない。 そこで、シエスタは近くにいた無精ひげを生やした男に声をかけることにした。 その男は、確か自分を応援してくれた男の一人であることにシエスタは気づいていた。 「あの、すいません……」 その声に気がついた男は、慌てて大きな声をあげた。 「おーい!お嬢さんが起きたぞ!!」 その声と共にルイズが、そして応援してくれていた男達が一斉にこちらを振り向いた。 無事に起き上がった姿を見たルイズは、何か言おうとして、そして言葉をなくした。 彼女が背負って闘ったものには、ルイズの名誉も含まれているのだ。 今は、照れ隠しに怒鳴る時ではない。 貴族として、感謝をする時だ。 だからルイズは行動にでることにした。 ただ、黙ってシエスタを引き寄せて、ありがとう、とささやいた。 そうして少し間時間がとまる。 男達も何も口を出さない。 今、主役はこの二人であると分かっているのだ。 その行動に呆然としていたシエスタではあるが、当初の目的を思い出した。 そこで、どうして自分がここにいるのか、そして大怪我をしていたはずなのにどうして治っているのかを尋ねることにした。 そうして、彼女達の会話が一段落したところで、今度は男たちも会話に加わることにした。 彼らのうち大半は普段女性と接触する機会がまったくなく、扱いに慣れていない。 そのため、あらかじめ飛燕が質問係として選ばれていた。 男塾一号生の中で、もっとも女性受けしそう、という理由だけでだが。 「シエスタさんでしたね。私は飛燕といいます。はじめまして。 そこにいるヴァリエール嬢の使い魔として働いているうちの一人です。」 などと、和やかに自己紹介を行った後、男達の一人一人を簡単に紹介した。 そうしていよいよ話は本題に入る。 「シエスタさん。あなたの祖父は、もしかして、大豪院邪鬼と名乗っておられませんでしたか。」 どうして祖父の名前を知っているのですか、と逆に聞き返したシエスタは気がついた。 男達がみな涙を流していることに。 不思議とその涙は美しかった。 その後、彼らは夜遅くまで話し込んだ。 彼らが祖父の後輩であると聞いた彼女は驚いた。 ただ、話しているうちに、彼らの纏う空気が祖父のそれに似ていることに気がついたシエスタは納得した。 年代が違う、世界が違う、そういった違いを跳ね除けて納得したのだ。 いつしかルイズも加わり、話は進んでいった。 彼らは、この世界に来てからの祖父の話に、時には涙を流し、時には大笑した。 一方、ルイズとシエスタもまた、彼らの破天荒な日常や戦いを楽しんだ。 そして夜がふけていった。 同じ夜、キュルケは自室のベッドで静かに横になっていた。 普段の彼女ならば、今頃恋人の一人でも自室に招いて、微熱に身を焦がしていただろう。 しかし、ここ数日はそういう気分にはなれなかった。 ギーシュと決闘したときのシエスタの姿と、まさしく全身全霊をかけて声援を送るルイズの使い魔たちの 姿が頭の中にこびりついて離れないのだ。 あれ程までに誰かを思いをぶつけることができるのだろうか。 キュルケの悩みはそこにある。 自分が今までしてきた恋に悔いはない。 全て、自分をいい女にするために必要なことであったからだ。 ただ少しだけ寂しいのだ。 (まあ、恋人ではないけどタバサがいるからいいか。) そう結論付けた彼女は、今日はタバサのところで女同士の会話でもしよう、と考えて立ち上がった。 タバサの興味は、実務的なところにあった。 具体的にはシエスタの使った真空殲風衝だ。 あの時、彼女からは魔法の力をまったく感じなかった。 (人は鍛えればあそこまでできる。) その現実に、タバサは希望を持った。 自分もあそこまでできれば、母を治す薬を取り返すことができるかもしれない。 普段のタバサなら考えないような過激な考えではある。 そう本人も自覚はしているが、止めるつもりはない。 少なくとも、希望は見えたのだから。 そこまで考えが及んだとき、部屋のドアから声が聞こえた。 キュルケだ。 そうして夜はゆっくりとふけていった。 男達の使い魔 第3.5話 完
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ゼロのルイズの使い魔。広瀬康一のハルケギニアでの一日は、桶に水を汲んでくることから始まる。 水場で自分の顔を洗い、水を汲む。この水でルイズに顔を洗わせる。 次はルイズを制服に着替えさせるわけだが、最近ルイズは康一に手伝うように要求してこなくなった。 相変わらず背を向けて待つ康一から隠れるように、もぞもぞと着替える。何かの拍子に目が合うと、顔を赤くして怒る。 以前は裸になっても恥ずかしがらなかったのに、謎である。 朝食の頃合になると、康一はルイズからバスケットを受け取って外に出る。 最近は内容がかなり豪勢になっている気がする。 というか、ハルケギニアの朝食は総じて重いことが多いうえに、厨房のマルトー親父が「たくさん食べて大きくなれよ!」との愛をこめて、どんどん料理を豪勢にし、さらに肉をてんこ盛りにするので、康一はちょっとげんなりしてしまう。 質素でもいい、母さんが作ってくれた味噌汁が恋しい。 だから、食べきれない分は、最近仲良くなった他の使い魔たちに分けてあげることにしている。 先日タバサやキュルケを乗せていた青い竜(風竜というらしい)と偶然会った際に食べきれない肉をあげたら、他の使い魔たちもわらわらと寄ってくるようになったのだ。 最近の食事は、厨房の裏手にある使い魔たちのたまり場でとることも多い。 授業の時間は、康一もルイズに付き添って出席することにしている。 使い魔である康一は本来出てもしょうがないのだが、何気なく聞いているうちに面白くなってきたのだ。 本来は勉強が好きではなかったのだが、こちらの世界のことを少しでも知りたいという『必要性』が康一の意欲を支えていた。 「もう床はいいから、椅子に座りなさいよ!」 とルイズが言うので隣に座らせて貰っているが、他の生徒たちも何も言わない。 ただ、キュルケがタバサを連れてやってきて、康一をルイズと挟む形で座ってしまうので、キュルケに恋する男たちの視線が背中に突き刺さるのが最近の悩みの種である。 どうしても納まりきらない男が、康一に嫌味を言ってきたり、もっと直接的に侮辱してきたりすることもある。そういうときは、だいたいキュルケの合図で、フレイムがこんがりと焼いてくれる。 ただ、キュルケが居ないときに、一度数人の貴族に囲まれたことがあった。 「平民の癖に・・・」「ゼロの使い魔の分際で・・・」と詰る男たちの前に、かわりに立ちはだかってくれるものがいた。 あの決闘で因縁のあったギーシュである。 ギーシュは言った。 「ミスタ・コーイチは僕を相手に、立派に自らの実力を証明してみせた。その彼を平民と侮るなら、それは僕への侮辱と見なす!」 文句があるなら「青銅」のギーシュが相手になるぞ!そういってギーシュが見栄を切ると、男たちは鼻白んで退散していった。 所詮貴族相手に本気で対立するほどの覚悟はないのである。 康一が礼を言うと、ギーシュは照れくさそうに鼻を掻いた。 「君はこの『青銅』のギーシュに打ち勝った男だからね。その君が馬鹿にされるのが我慢できないだけさ。」 そして改めて、ルイズを皆の前で侮辱したことに謝罪した。 潔い謝りっぷりに「なんだ。以外といいやつじゃあないか。」とその謝罪を受け入れた康一は、ギーシュとそれから機会のあるごとに話す仲になった。 実は、あの鼻っ柱をへし折られた決闘の後、一気にカリスマ性を失ったギーシュを哀れに思ったモンモランシーが戻ってきてくれ、よりを戻したらしい。得なやつである。 そんな風にしてギーシュといろんな話をしていると、ギーシュの友人達とも自然と仲良くなっていった。 こうして、召喚されてから二週間もすると、康一の周りには常に人が集まるようになっていった。そして、康一の隣にはいつもルイズがいた。 それまでいつも一人だったルイズである。急にクラスメイトたちで賑やかになった学校生活に、最初ルイズは戸惑い気味だった。 しかし、みんなから好かれる康一と一緒にいると、わだかまりのあったクラスメイトたちとも自然と打ち解けることができた。 こうして一日を終え、二人揃ってルイズの部屋で寝る前には、ベッドのうえでいろいろな話をするようになった。 ルイズはハルケギニアのことを康一に教え、康一は杜王町のことをルイズに話した。 話が由花子さんの段になると、ルイズはしかめ面をして、疑わしそうな目で見た。 「あんた、前から時々恋人がいる、恋人がいるって言ってたけど、まさか本当なわけ?」 見栄張ってるんじゃないでしょうねー、と言わんばかりである。 「まさかって、まだぼくがうそついてるとか思ってたの~!?」 大仰に目をひん剥いてみせると、ルイズはなぜか目をそらした。 「・・・あんたの恋人ってどんな人?」 康一は目を閉じて、由花子さんの顔を脳裏に描いた。 すらっとした体型。整った鼻筋。きめの細かい肌。長く艶やかで、きらきらと光を放つ黒髪。そしてなによりも、あの強くまっすぐな瞳。 由花子の容姿を話して聞かせると、ルイズはどんどん不機嫌になっていった。 「男より頭ひとつ分大きい彼女なんて、似合わないわ。」 ルイズはそっぽを向いたまま、ネグリジェの裾をぎゅっと握り締めた。 「それをいうと、ぼくと付き合ってくれる女の人なんてほとんどいなくなっちゃうなぁ~。」 康一が笑うと、ルイズは口を尖らせた。 「別に・・・あんたより小さい女の子なんてそこら中にいるわよ。」 それだけ言って毛布に包まった。 「そうかなぁ~。」 康一は知り合いの女性たちの身長を思い出してみたが、自分より低い人は思いつかなかった。 こっちではタバサが自分より低いだろうが、あれは明らかに子どもだからノーカウントである。 でもルイズがこうやって毛布を被るのは、これで話を打ち切りにするという合図だと分かってきた康一も、そろそろ寝ることにした。 部屋の明かりを消す。 明日あたりオールド・オスマンに会いに行ってみようかな。 杜王町に帰る方法をそろそろ本格的に探してみよう。 そう心に決めて、目を閉じる。 静かになった部屋で、毛布から頭だけ出したルイズが、何か言いたげに見つめているような、そんな夢を見た。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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前ページ次ページ赤目の使い魔 クリストファーが起きた後、医療を担当としている教師の一人により、彼に簡単な検査がなされ、 大方傷は治っているものの、療養として彼は今晩までベッドで安静に過ごす様言われた。 その際、ルイズも彼に自分の置かれた状況を説明する様指示され、苛立ちを押さえ込みながらも従った。 本当であれば、この無礼で身の程を知らない使い魔の頭上に爆撃の一発でも喰らわせたい気分だったが、 そのせいでまた彼が怪我を負うことになれば、また使い魔を連れずに一人で学校生活を送ることになる。 この三日に嫌と言うほど周囲からからかわれたのだ。これ以上は願い下げである。 兎に角、今の目標はこの男に使い魔としての身の振り方を叩き込む事だ。 「なに?しかめっ面しちゃって。ストレス溜め込むと発育止まるよ?」 ……早速、心が挫けそうになるルイズだった。 ● ● ● ルイズの沈黙を見て、クリストファーは言葉を続ける 「あれ、もしかして図星?心配ないよ。女の子の成長期は14、5歳が全盛期だって言うし」 「……わたしは16よ」 「…あらま」 見ると、クリストファーは本気で不憫そうな顔をしていた。 ……前言撤回、殺す。ルイズは内心決意した。 彼はジト目で睨むルイズの視線を意にも介さず、あくまでマイペースに話題を変える。 「ていうかさぁ、良く僕みたいなのを助ける気になったね?こんな人間離れした怪物みたいなの見たら、大抵の人はダッシュで逃げると思うけど」 その言葉を聴いて、ルイズは諦めた様に呟く。 「…仕方ないじゃない。あんたは『サモン・サーヴァント』で使い魔として召喚されちゃったんだから」 「……へ?」 サモン・サーヴァント?使い魔?召喚? 聴きなれない言葉の羅列に、クリストファーの思考は一旦ストップする。 ルイズは、深く溜息をついた。 「…じゃ、『サモン・サーヴァント』から説明するわ…」 ● ● ● 「『サモン・サーヴァント』っていうのは召喚の魔法の事、ハルケギニアの生き物を呼び出して使い魔にするのよ。まぁ、普通は動物とか幻獣なんだけどね」 魔法。 何十年と生きてきた彼は、その言葉を幾度と無く聴いてきた。 しかし、彼の知る限りそれらは往々にして創作の中の話であった。 まぁ、彼の存在自体は魔法のようなものであるが、それは基本的には錬金術と呼ばれている。 改めて、目の前の少女の格好を見る。 白いブラウスの下に、グレーのプリーツスカートと、一見して制服の様にも見える服装。 しかし、その上に羽織った黒マントに、それを留める五芒星が彫られた大きなブローチ。 確かに、魔法使いにも見えなくも無い格好だ。あくまで、コスプレの範囲での話だが。 「……魔法?」 知らないうちに、彼の疑問は口から出ていた。 すると、ルイズの表情にあからさまな呆れの色が現れた。 「何よ。まさかあんた、魔法も知らないわけ?一体どんな田舎からやってきたのよ」 クリストファーが二の句を告げないでいる内に、彼女は話を続けようとする。 「いい?魔法って言うのは―」 「ちょっとストップ」 「…何?」 いきなり割り込んできた彼に対し、ルイズは若干の不快感を表しながら言葉を返す。 「えっとさ、とりあえず聞きたいことと突っ込みたいことが色々あるんだよね。時間かかるだろうけど、ちょっと付き合って」 彼は部屋を見回して言った。 「ここどこ?」 ルイズは顔に浮かんだ不快をそのままに、言葉を返す。 「トリステイン魔法学院。トリステイン王国の中心都市近くよ。まぁ、魔法も知らないんじゃこんな事言っても分かんないだろうけど」 トリステイン王国。 彼女の言うとおり、クリストファーはその国を知らなかった。 それどころか、クリストファーは決して地理に明るいわけでは無いが、彼の知る限りそんな国は何処にも無かったはずだ。 少なくとも、アメリカの周りには。 「僕、港の近くで倒れてたはずなんだけど」 クリストファーの疑問に、ルイズは顔色も変えずに答える。 「言ったでしょ、召喚されたって。あんたが何処にいたかは知らないけど、どんな所にいても『サモン・サーヴァント』が唱えられればそのメイジの元に送られるのよ。あ、メイジってのは魔法使いの事ね」 そう言うと、彼女は窓に歩み寄った。 「ほら、あそこで呼び出したの」 クリストファーも身を起こし、つられて窓に近寄る。 まず目に入ってきたのは、草原。 そして、それだけだった。 地平線までどれだけ目を凝らしても、海どころか町らしきものすら見えない。 日はとっくの昔に沈んでいるため、周りは暗くなっているが、視界が遮られる程ではない。 拉致されたのかと一瞬彼は考える。それなりに恨みを買う生活をしていた彼には、そうされる理由が多くある。 しかし、こんな小さな少女を見張りにつける意味は無い。 それに、それでは彼女の『魔法』と言う言葉の説明が付かない。 彼は、何の気もなしに空を見上げた。 そして、彼の時間が止まる。 「……どうしたの?」 固まったクリストファーを見て、ルイズも同じく顔を上げる。 そして、彼と同じ物を見た。 「…何よ、何も無いじゃない」 ルイズは、何もおかしい事は無いといった様子で顔を戻す。 空に、普段のゆうに二倍はある月が、二つも浮かんでいるのにも拘らず。 ――甘かった。 クリストファーの中には、ある考えが現れていた。 それは、不自然の象徴である彼でさえ、到底信じられないような不可思議な事。 ――場所がどうとか言うレベルじゃない。 しかし、周りの状況が彼に確信を強いる。 ――此処、俺のいた世界じゃない……! その後の事は、彼は良く覚えていない。 ベッドに戻った後、あの少女が使い魔や主人がどうとか言っていた様な気もするが、呆然としていた彼にはその一部しか聞こえていなかった。 彼が我に帰ったのは、足に再び軽い重量を感じた時だった。 見ると、話し疲れたのか、ルイズは彼が目を覚ました時と殆ど同じ格好で寝息を立てていた。 そんな穏やかな彼女の様子とは逆に、彼の頭は混乱で荒れ狂っている。 自分はこれからどうすればいいのか。 他の『吸血鬼(ラミア)』の仲間たちはどうしているのか。 そして、ヒューイからの任務はどうなるのか。 そんな疑問が渦巻く頭に、疲弊からか、それとも少女につられてかは分からないが、大きな眠気の波が襲ってきた。 ――まぁいいや。 朦朧とする頭の中、彼は考えることを止めた。 ――後は、起きてから考えよう。 その言葉を最後に、彼は意識を手放した。 前ページ次ページ赤目の使い魔
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前ページ次ページ鋼の使い魔 アンリエッタが訪れた夜が明けて、早朝。 朝の澄んだ空気の中に旅支度をしたルイズとギュスターヴが、厩番に駅逓乗り換えが効く馬をもらい、学院正門前で馬具を着けていた。 ルイズは普段の制服だが、スカートの下にブラウンのスパッツを着け乗馬用のブーツを履いている。踵に生えた角のような棒拍が朝露に濡れている。 一方ギュスターヴは普段のデルフと短剣に、以前武器屋でデルフにおまけとしてつけさせたナイフ6本を革紐で連ねて体に巻きつけるように着けている。 馬具の具合を確かめながらルイズは言った。 「いい?ギュスターヴ。私達はアンリエッタ殿下からある任務を賜ったわ。その為にまず、国を出てアルビオンに行くのよ」 しんとする朝の空気にルイズの声が響く。そこには使命感に燃える瞳があった。 「なんで俺まで付いていかなきゃならんかな」 他方、秘密主義的に振舞う一応の主人に対し、手の内を知っているギュスターヴは少し冷めた気分で抵抗してみる。 「何言ってるのよ!あんたは私の使い魔でしょ!ご主人様が出かけるなら付いていくのが基本でしょうが!」 指を伸ばしギュスターヴに突きつけるルイズ。彼女の頭が今は任務の事で頭が一杯なのだ、というのがわかる。 ギュスターヴは小さくため息をつく。 「…で、まずは何処まで行くんだ?」 「ここから大体北西に400リーグくらいにあるラ・ロシェールという町に行くわ。そこからアルビオンへの定期船が出ているの」 「しかし馬では次の『スヴェルの日』までに町に着けるか微妙だな」 「誰だ?!」 不意に聞こえてきたのはこの場の二人以外の、若い男の声だ。 警戒しデルフに手をかけるギュスターヴだが、声の主は上空から屈強なグリフィンに乗って降りてきた。馬が慄くなか、グリフィンは行儀よく地面に着地する。 「いや、驚かせてしまって失礼。僕は君達を護衛する為にアンリエッタ殿下に依頼された、魔法衛士大隊のワルドだ。よろしく」 ワルドと名乗った男はグリフィンの背から颯爽と降りると、呆然としていたルイズに近寄り、その腕ですっと胸に抱き上げた。 「久しぶりだ、僕の小さなルイズ!」 「わっワルド様?!」 突然の抱擁にルイズは顔を真っ赤にして固まった。 「陛下のご依頼に感謝しなければならないな。婚約者と再会できる機会を与えてくれたのだから」 「そ、そんな…昔の話ですわ」 目を伏せ気味に答えるルイズにワルドは大仰に答えた。 「そんなことを言ってくれるなよルイズ!暫く会えなかったが、僕は君の事を片時も忘れた事はなかった」 あまりに熱っぽい言葉にルイズはますます頬を染めてしまう。 ワルドはそんなルイズをそっと地面におろし、二人のやり取りをぼんやりと見ていたギュスターヴに話しかけてきた。 「君がルイズの使い魔だそうだね。いつもルイズを守ってくれて礼を言うよ」 「……ああ…なんてことはない」 気さくに話しかけてきたワルドに、ギュスターヴは巧く受け答えしきれない。 ワルドはそんなギュスターヴを無視してルイズに聞かせる。 「殿下から預かりものがある。任務を進めるために必要なものだそうだ。もっているといい」 ワルドは懐を探って何かを手に取ると、ルイズの両手を取って握らせた。それはうっすらと桜色をした便箋に、古めかしい様式で装飾された 薄蒼の石の填められた指輪だった。便箋の方には、赤い蝋に王女の紋章の印で封がされている。 「では、時間も惜しいので出発しよう。使い魔君は早馬を飛ばしたまえ。僕が上空で先行するから見失わないように」 言うとワルドはやおらルイズを抱き上げてグリフィンに乗せると、手綱を引いてグリフィンを空へと導いた。 あまりの手際に声も上げなかったルイズだが、立ち呆けているギュスターヴに急いで声をかける。 「あ、あ、ギュスターヴ!遅れないようについてきなさいよ~!」 ギュスターヴの耳にルイズの声が空へと遠くなっていく。 つむじ風のように引っ掻き回していったワルドに唖然とするしかないギュスターヴの腰で、デルフがかちゃかちゃ言い出した。 「なんだかすっげーなあの男。おまけにお嬢ちゃんの婚約者だとさ」 「……まぁ、貴族の娘ならそんなのもあるだろうさ。…さて、見えなくなる前に出発するぞ」 馬が余ってしまうのだが、仕方が無いと一頭を門に繋いだまま、ギュスターヴは急いで馬を走らせ、上空のグリフィンの進行方向へ進んでいくのだった。 『ラ・ロシェールへ向けて…』 ギュスターヴ、ルイズ、そして現れたワルドら三人がトリステイン魔法学院を出発したほぼ同時刻。当座の目的地であるラ・ロシェールの町の一角に店を構える酒場 『金の酒樽亭』。20年前に店を構えて以来、立地条件から常連客の多くは傭兵や盗賊あがりなどのアウトローばかりで喧嘩も絶えないが、酒の質と量が 顧客の範囲を決めている節もある、そんな店である。 その日も朝から、いや、前日の晩からどんちゃん騒ぎをしながら酒をかっくらっている一団が店に陣取り、強い酒やら肴やらを食い散らかしながら 荒くれた男立ちが管を巻いている。 そんな店に、ふと見慣れない客が入ってきたな、と酒場の主人は出入り口からこちらに向かってくるものを認めた。 ローブを身に着けて、フードで陰になり顔は窺えないが、その両足には中々の装飾がされたブーツがきっちりと履かれている。 謎の客はカウンターの椅子に座ると、主人の前にとす、と小気味よい音を立てる皮袋を置いた。 主人がその袋の口をあけてみると、中には新金貨がぎっしりと詰まっている。 「お客さん、そんなに出されても困りますよ」 金回りのいい客は一見商売として旨みがあるが、荒くれ者を扱ってきた主人は一方で、なにやら危うい背景があるのではないかな、という勘繰りを持った。 客はカウンターに肘をついて答えた。その声は、女性。 「宿代も入ってるんだよ。部屋は空いてるかい?」 それも路地裏で立ちんぼしているようなうらぶれた女ではない。凛としたものが混じった、美女といえる類の声だ。 主人がその女と宿代の周りで交渉していると、角で酒を飲んでいた傭兵くずれの一団が女を囲むように集まってきた。 「お姉さん、ひとりでこんな店にはいっちゃ、いけねぇなぁ」 「危ない連中が多いからなぁ。怖かったら守ってやるぜぇ、ベッドの中までな、ギャハハハハ!」 酒臭い息を吐きながら、一団の一人が悪戯のようにフードを引っ張ると、その下から女の顔が覗く。 鼻筋の通った小顔、裏の世界を見てきた人間が持つ鋭い目をしている。髪は特徴的な、鮮やかな緑色。 女を知る者は彼女を『土くれのフーケ』と言う。 酒で調子づいている傭兵達は、それぞれに奇声を上げ口笛を吹いてフーケを見た。 「こいつぁべっぴんだ。見ろよこの綺麗な肌をよ」 品性の疑わしい声で一人がフーケの顎筋に手を伸ばすが、フーケは蝿を払うように手を振る。 「気安く触るんじゃないよ、蛆虫」 鬱陶しげに席を立つと、羊を追い込む獣のように男達がフーケを取り囲もうと動く。 やがて一人が手を伸ばしながらフーケに迫る。 「へっへっへ、怖がらなくても悪いようにはげへぇっ!」 フーケの肩に手を置こうとした男は、次の瞬間に何かに弾き飛ばされるように吹っ飛んでテーブルに頭から突っ込んだ。テーブルの上の瓶やグラスが床で砕ける。 驚いて一団が振り向くと、すっと長いフーケの足が、ちょうど吹っ飛んだ男の顎の高さまでピンと伸びていた。 フーケの足が男を蹴り飛ばしたのだった。 数拍して事態を把握した男達は、酒で濁りきった声でフーケに叫ぶ。 「このアマ!」 同時に男達はフーケを捕まえるべく手を伸ばすが、フーケの足はしなる鞭のように男達を強かに蹴り飛ばした。 「ぐへぇ!」 「ごはっ!」 「あぎぃ!」 酒場はあっという間に竜巻が出入りしたかの如き惨状を呈した。窓に首を突っ込んで伸びている者、椅子とテーブルの山に埋もれている者、ある者は 店の柱に叩きつけられてえびぞりで気絶している。酒場の主人は喧嘩程度はいつものことさ、という風情でのんきにグラスを磨いていた。 まだ息のある一人にフーケが近づいていくと、男は子供のようにブルブルと震えて慄いた。 「ま、まってくれぇ!俺達はもうなにもしねぇよぉ!」 「そんなに怖がることは無いだろう?私はあんた達を雇おうと思っただけさ」 冷ややかに笑うフーケの顔を怪訝な表情で男は見た。 「や、雇う?」 「そうさ。金なら、ホラ」 フーケはテーブルの一つに、カウンターで主人に渡したように金貨の入った袋を置く。 「一人新金貨で100ずつ渡しとくよ。その代わり後で私の命令に従ってもらうからね」 金の酒樽亭を後にしたフーケは、そのまま町の路地に入る。路地を進むと脱獄の時に姿を現した、仮面の男が待っていた。 「……お前さんの言った人数は集めたよ。これからどうするんだい?」 フーケは脱獄後、このラ・ロシェールまでつれてこられてから、脚の『準備』をしつつ、アルビオンからやってきた傭兵たちから情報を集めるように指示されていた。 しかし前日になって、今日は「傭兵たちを金で集めろ」と指示を受けたのだった。 仮面の男は地図を渡して話す。 「この印の付いたところに傭兵の半分を待機させて、そこを通った者を襲わせろ」 「残りの半分は?」 「保険だ。暫く伏せておけ」 「ふぅん…まぁいいさ。少なくとも、この『脚』の礼分は働いてやるよ」 カツカツと地面を踏み鳴らしてフーケは答えた。 ルイズ、ギュスターヴ、ワルドの一行は一路ラ・ロシェールへの道をひた走っていた。 「走る」といってもそれは馬に乗っているギュスターヴだけの話で、ワルドとルイズは悠々と空を飛ぶグリフィンの背である。 駅逓で馬を変えるたびに疲労の度合いを濃くしていくギュスターヴであるが、懸命に先行するグリフィンを追いかけていた。 ルイズはグリフィンの上から眼下を走る馬上のギュスターヴを心配した。 「ねぇワルド。あんまり急ぐとばててしまうわよ」 「僕とグリフィンなら大丈夫さ。これくらいの距離はなんでもない」 「そうじゃなくて、下でついてきてるギュスターヴのことよ」 「付いてこれないならおいていけばいいさ」 「彼は私の使い魔よ。放っておく事はできないわ」 そんなルイズの言葉を聞いて、どこか悲しげな目でワルドは見た。 「どうやら、あの使い魔君に心奪われたらしいね」 「そ、そんなわけじゃないわ!」 「本当かい?まだ僕のことを婚約者として見ていてくれているかい?」 「それは、その…あの頃はまだ、小さかったし…」 「僕は君のご実家の、ラ・ヴァリエールに見劣りしないものが欲しかった…」 ふと、ワルドの視線がどこか遠くを見ている。 「父も母も亡くなってしまってから、軍に入って出世して、君のご実家にも指差されず会いにいけるくらいになりたかった。 お陰で今は、近衛軍の精鋭の綱とりを任されている」 「出世したのね、ワルド。…でも、私はあの頃と同じ、魔法の使えないゼロのルイズよ」 そう答えたルイズを、ワルドは優しげに頭を撫でた。 「君は暫く会えなかったから、気分が落ち着かないだけさ。この旅はいい機会だ。ゆっくり、昔の気分を思い出すといいよ」 爽やかに笑いかけるワルドだが、ルイズはどこかそれを手離しで喜べない。 再び眼下、懸命についてくるギュスターヴを見るのだった。 馬上で汗を流しながら、ギュスターヴは懸命に馬を操って大地を進んでいた。かろうじて街道らしき道筋を通っている事は判ったし、場所場所で立て札の類を見たり、 上空のグリフィンの向いている方角を確認して進む。 黙々と手綱を引いていたギュスターヴに、デルフが話しかけてくる。 「相棒、大丈夫かい?」 「まだ馬に慣れきってないからな。後が怖いな」 鍛錬を重ねたとはいえ、齢49の身体である。酷使すれば若者のようには行かない時もある。 「お嬢ちゃんとワルドって奴、上で何話してんだろーな」 上空のグリフィンをギュスターヴは見た。否、グリフィンにまたがる二人を、ルイズに寄り添うようにするワルドを、その眼で見た。 「さぁな。ただ」 「ただ?」 グリフィンを確認してから、ギュスターヴは手綱を繰って街道を走る。その表情は、苦虫を噛み潰したような渋みを含んで。 「あの若造、何か隠しているような気がするな」 場所場所の駅逓で馬を乗り換えること、3度。時間も迫って夕暮れが近い。それだのに四方は川もなく、むしろ丘陵を登っている事にギュスターヴは疑問を抱いた。 「なんでこんな山間にはいるんだ?船に乗るんだろう…?」 船に乗るなら港に行くものだ。しかし山に入っていって港に出るというのはギュスターヴには理解できない。薄暮の空に影を射し始めたグリフィンを見て、ほのかに 嘆息する。 「付き添わせるならもう少し詳しい指示を出してくれよ。ルイズ…」 山間の道を辿って行くギュスターヴ。起伏が激しく、木々も茂る中を進んでいると、どこからか複数の松明がギュスターヴの乗る馬の前に投げ込まれた。 「何だっ?!」 火は生草の上でちろちろと燃えるのみだった。しかし次の瞬間、ギュスターヴの馬目掛けて無数の矢が打ち込まれてきた。 その内に尻に一本の矢が刺さり馬が暴れて立ち上がろうとするのを強引に押しとどめたギュスターヴは急いで手近な木の陰に寄って下馬し、 手綱を木に結んで身を隠した。 「夜盗か…?」 と、上空を見ると木の陰に暗い空を飛ぶグリフィンが、先ほどよりもずっと小さく見えた。 「あの二人、気付いてないのか…?」 そうしている間も松明の火を頼りにした謎の弓撃はギュスターヴを囲むように飛び、馬の肌を掠めると錯乱した鳴き声を上げている。 デルフを抜いてギュスターヴは夜盗と思わしき集団に対峙すべく動き出した。 「相棒、嬢ちゃん達に置いてかれちまったぜ?どうするのよ」 「今更引き返すわけも無い。ここを突破して追いかけるぞ」 これ以上馬が傷つくのを避ける為にあえて影から飛ぶと、矢もギュスターヴを追うように飛んでくる。木や岩の陰に隠れながら自らを射掛ける者がどこに 潜んでいるのかをギュスターヴは探していた。矢の飛んでくる間隔を覚えながら移動すると、薄暗い林の中に弓を番えてこちらを見ている集団を認めた。 「あそこだな…」 確認するとデルフを地面に刺し、帯巻きにしているナイフを一本、『左手』に握った。 (ガンダールヴというのが身体能力を高めるのならば…) 呼吸を整え、体から闘争心を引き出す。そして静かに眼を瞑った。 この時ギュスターヴは単にそうするだけではなく、聞こえる音に神経を注いだ。ガンダールヴが武器を握って心を震わす時、体から引き出す力は 筋力だけではないということにギュスターヴは気付いていた。肌に触れる風、聞こえる音、匂い、眼に入る光すらも平時よりも肉体は敏感に捉える事ができるのだった。 そしてギュスターヴの聴覚にははっきりと聞こえたのだ。弓に張られた弦が空気を切る音、飛翔する矢羽の欠けが風を裂く音、木の幹に鏃が刺さるわずかな音も 聞き漏らさなかった。 活目し、身を乗り出したギュスターヴ。音に聞こえた場所を注視した。薄暮の空、目が捉える光が少ない時間において、ギュスターヴの眼には陽光の下と大差なく、 鮮明に夜盗の弓構える姿を写していた。 「そこだっ!」 ナイフを握る左手のルーンが光る。ギュスターヴは引き出された身体能力を駆使してナイフを投げた。 手を離れたナイフは空を回転しながら飛び、寸分の狂い無く夜盗の喉にその刃を滑り込ませた。ナイフが突き刺さった一人の夜盗が、喉を抑えるように呻いて倒れる。 ギュスターヴはすぐまた身を影に隠した。 「やるじゃねーか相棒」 地面に刺さったままのデルフが話す。 「ああ。でもナイフも無限にあるわけじゃない。これだけで切り抜けられるかな…」 反撃を受けると思わなかったのだろう夜盗は矢掛けるのを止めたが、多勢を貨って再び矢を打ち込んでくる。今度は脂を含ませた火矢を混じらせて飛ばし、 辺りの草木に突き刺さるとそこから徐々に燃え始める。 「ちょ、まじやべーぜ相棒!辺りが燃え始めてるぜ」 「しかし今飛び出せば矢に当たるだけだ…くそ!」 夜盗は一心不乱に矢掛けてくる。仲間がやられてあせっているのかもしれない。 ギュスターヴの周りを火矢の炎が広がって炙り始めようとしていた。 と、その時。『真上』からギュスターヴの周囲に降り注ぐ『氷の槍』。燃えかけていた草木で溶けると火を消していった。 同時に、物陰から矢掛けていたはずの夜盗から悲鳴が上がる。 「りゅ、竜だぁ!」 「メイジが乗ってるぞ!」 「火の玉がとんでくるぅ!」 悲鳴を上げながら夜盗の声が散って遠くなっていく。ギュスターヴが見上げると、学院の生活で見慣れた竜に、顔なじみの少女が二人乗っていた。 「ハァイ?ミスタ」 「キュルケ!タバサ!」 矢を受けて傷ついた馬はシルフィードが咥え、ギュスターヴはシルフィードの背中を借りてラ・ロシェールを目指すこととなった。 どうしてここへ、と問うギュスターヴに対して、 「ミスタとルイズが気になっちゃって、ね?」 ふられたタバサは頷く。背中には、あの飾ったようなレイピアが背負われている。 「それも持ってきたのか」 「何かに使えるかもと思って。それに出先でも修行ができるでしょ?」 大人用のレイピアを背負うと、タバサに舞台をひしめく人形のような、ある種の滑稽さを作っている。 「それにしても、使い魔を置いていくなんてルイズも薄情ね」 「いや、ルイズは気付いていなかった。夜盗が襲ったのは地上を移動していた俺だけだった」 「そのワルドっていう人、本当に護衛なのかしら?」 キュルケは見知らぬワルドの姿を想像しようとした。 「さてな。王女から預かり物を持ってきたところや、先日の王女がやってきた時に護衛をやってきたあたりから、それなりに腕の立つ、 それで高官や王女に覚えがある軍人なのだろうとは思う」 シルフィードの翼が風を切る中、三人は答え無き考えの中に泳ぐ。 「……ひとまず、ラ・ロシェールという町まで行ってルイズと合流しよう。話はそれからだ」 「そうね。飛ばして頂戴、タバサ」 頷いて、タバサはシルフィードの首を叩く。 一鳴きしたシルフィードは、薄暗くなりつつある空を飛んでゆくのだった。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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本日、学院の講義は無い。休日である。 タバサは自分の部屋にいた。 虚無の曜日に、『サイレント』の魔法をかけた自室で読書にふける。 一人で自分の世界に浸るのが彼女の最大の楽しみであった。 だが、本日のそれは突然の侵入者によって破られることになった。 先程からキュルケがタバサの目の前で何かを話しかけている。 大げさな身振り手振りも交えている。 『サイレント』の魔法により、何も聞こえることは無いが、 よほど何か重大なことを伝えたいのだろう。 3分ほど彼女の奇妙なダンスを満喫した後、『サイレント』の魔法を解除する。 とたんに騒がしくなった。 「だからね!私のダーリンがルイズと一緒にどこかに行っちゃったの!」 「虚無の曜日」 そう答えて、迷惑だといういことを表現する。 「私ダーリンに恋しちゃったの!それなのにあのヴァリエールなんかと一緒に馬に乗って行っちゃったわ!」 「だから行き先を突き止めるのにあなたの使い魔が必要なのよ!」 仕方が無い。これが他の人であれば、『エア・ハンマー』か何かを食らわせるのだが、無二の親友が、わざわざ自分の使い魔を頼りに来たのだ。 「分かった。…シルフィード」 「まったく、ロハンはいったいどこに行っちゃったのかしら?」 「俺に聞かれてもな…」 トリステインの城下町を、 ルイズとブチャラティはもう2時間も岸辺露伴を探し回っていた。 どちらとも徒歩である。 馬は門のそばにある駅に預けている。 事の起こりは、岸辺露伴が「画材を買ってくる」と、ルイズがまだ寝ている早朝のうちに街に出て行ってしまったことに始まる。 「ふぁぁぁ。あれ、ロハンは?」 ブチャラティは、起きて来たルイズにうっかり簡潔に答えてしまった。 「ロハンは(学院を)出て行った」 使い魔にすら見捨てられたと泣き出すルイズ。 ブチャラティがなだめるのに1時間。 「使い魔の癖に!勝手になにやってるのよ!」 やっと泣き止んだと思ったら、「使い魔の心得」とやらを1時間。 ロハンに対し猛烈に怒っているようだ。 「私もトリステインの街に行くわよ!準備して!」 「ひょっとして俺も行くのか?」 「当然でしょ!」 着替えながらルイズが叫ぶ。 ブチャラティは、主人に背を向けながらため息をつくのであった。 「あとはこの道ね…」 トリステイン城下町の主な道路を探しつくしたルイズたちは、とある路地裏を目の前にしていた。 ごみが散乱している。どこからか腐敗臭が立ち上っている。 ルイズは、「できれば一生立ち入りたくない」という表情をしている。 「大丈夫か?ルイズ?」 「使い魔の管理は貴族として当然の義務よ! それにロハンがブルドンネ通り沿いの画材屋で買い物した事は確実だし、この街にロハンがいるのは間違いないわ」 ブチャラティは先ほど聞き込みをした店を思い出していた。 道幅5メートルほどの道路に面したこぎれいな雑貨屋であった。 そこの店主によると、 「やたらそこらじゅうをスケッチして回る客が、大量に画材を買っていった。 その客はインクの『味』も確かめていた。」とのことである。 「まったく…こんなところをご主人様に探させるなんて…」 ブチャラティが、今日3回目の 「そんなに言うのならやめればいいじゃないか」のセリフを言おうとしたとき、 「あ!いた!ロハン!」 武器屋の看板をスケッチしている露伴の姿があった。 露伴自身はスケッチ道具以外何も持っていない。 かわりに、大人の身長ほどの高さになる、 袋いっぱいの画材を抱えている少年メイジが隣に立っていた。 「おや、ルイズとブチャラティ。奇遇だね。こんなところで会うとは」 「わざわざあなたを探していたのよ!ロハン! どのくらい時間をかけてと思っているの? あなた、出かけるときはご主人様に直接言いなさいよね!」 「悪かった。スマン」 「へ?」 あまりにもあっさり謝られる露伴にかえってびっくりしているようだ。 「それよりも僕はこの世界の武器に興味があるんだ。 よかったら案内してくれ」 ルイズにかまわずに武器屋に入っていく。 「ち、ちょっと待ちなさい」 「そうだ。待ってくれ。もう僕に荷物持ちをさせるのはカンベンしてくれ」 少年メイジが露伴に話しかける。 「まあいいじゃないか。ギーシュ君。 荷物が大きいから君は武器屋の外で待機していてくれ。 これは僕の『お願い』だ」 「…分かりました。露伴さん」 「貴族のダンナ。うちはまっとうな商売をしてまさあ。」 「ただの冷やかしよ」 「ああ、さいでっか」 (客ですらねーのかよッ!) ルイズと武器屋の親父のやり取りを尻目に、 岸辺露伴は手近な武器を手にとり、スケッチを開始していた。 「なるほどレイピアがあるぞ。 それにグラディウスやスクラマサクスもある。基本的になんでもありだな…」 この場においていかれた感のあるブチャラティは、ふと一本の片刃剣に目が行った。 「この剣… 近くでよく見るとすごく美しいな…」 「抜いてみるか…」 「その剣をぬくんじゃぁねーぜ!心をとられちまわあ」 突然、誰もいない方向から声がした。 「誰だ!」 ブチャラティは剣から手を離し、すかさず周りを警戒する。 が、誰もいない。 「うるせーぞデル公!」 店長が怒鳴る。 「今のはなんだ?」 「インテリジェンスソードってやつでさ。誰が考えたか知りやせんが、しゃべる剣なんです」 「これが『デル公』か」 ボロボロの剣をロハンが取り上げる。 「気安く触んじゃねーぞ!このやろう」 「面白いな、これ。買おう。いくらだ」 「新金貨百で結構でさ」 「ロハン、お前は『それが危ないかも』とか思わないのか?」 「いや全然。これはなかなか面白いぞ。ほれッ」 一振りの剣が、放物線を描いて宙を舞う。 「俺様はもっと繊細に扱えこのボケ!」 「裸身の剣を投げてよこすやつがあるか。 まあ、錆びてるから怪我はしないだろーがな…」 「…おでれーた。おまえ『使い手』か」 「『使い手』?」 「ふん?自分の実力も知らんのか。まあいい。お前らに買われるのならいいか」 「そのことなんだが…」ロハンが口を濁す。 「僕は先に画材を買ってしまってね。いま手持ちが百ないんだ」 「マヂで!俺様死亡フラグ?」 「ならばこうしよう。ルイズ?」 ブチャラティが口を続ける。 「君はこの前、決闘に善戦したご褒美を買ってくれると約束した。そのときの約束として、ロハンの手持ちに足りない分を足してくれ」 「いいの?あなた自身の希望は無いの?」 ルイズは不満そうだ。 「俺はいい。あえて言うなら毎朝カフェオレがほしいが…」 「…無理ね」 岸辺露伴が新金貨67を、ルイズが33を支払った。 「毎度」 ヴチャラティは店を後にし、露伴に『デルフリンガー』を手渡した。 「ほれ」 「ありがとう」 「先にいっとくがな!俺はテメーが…」 「なるほど、鞘に収めれば黙るのか」 店の外には、先ほどの少年メイジが忠犬ハチ公のように露伴を待ち構えていた。 「そうそう、この剣も君が持ってね。学院のルイズの部屋まで決して落とさずに持ってくるんだ。 これは僕の『お願い』だ。」 「…分かりました。露伴さん」 この珍妙な面々が武器屋から出て行くと、後をつけていたキュルケとタバサは武器屋のなかに入っていった。 「おや!珍しい。また貴族だ」 「ねえ御主人。先ほどのおかっぱ頭の方が何していたかご存知?」 「そういえば一振りの剣に興味を持っていたようですぜ? たしか、こいつ…」 夜。 トリステイン学院にて 「結局今日一日は露伴を探すだけだったわね」 ルイズたちの目の前をキュルケたちが無言で通り過ぎようとしていた。 「どうしたの、タバサ、それにキュルケ。ボロボロじゃない」 「…武器屋とキュルケを退治してた」 「?あんた達ケンカしてたの?仲良さそうに見えたのに…」 「…何も言いたくない…」 アヌビス神 → タバサのマジックアイテム『デグチ=ホソナール(Sサイズ)』にて捕獲。永久封印。 武器屋 → 営業中。店長の親父に『ミス・タバサの紹介』といえば、二割引してもらえる。 倉庫の奥から「えッ!俺もう出番ないの?」との声が時々聞こえる。 To Be Continued...
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投稿日: 02/07/05 16 53 00012 能力名 心臓御殿(ブラッドチェンジ) タイプ 生体変化,機能変化 能力系統 特質系 系統比率 未記載 能力の説明 自分の心臓を排出し、オーラの形と機能を心臓に変化させたものをすぐさま移植する。 その心臓モドキを通過する血液に、オーラの性質を変化させたものを溶け込ませる。 性質の種類は様々。身体、思考能力は飛躍的に上昇し、ある種の毒やウイルスは無効化する。 頚動脈を切られてもすぐにかさぶたができ、自分の血を毒のようにして使うこともできる。 性質の種類は前もって決めたものではなく、心臓が勝手に判断する。 毒などは、血を吸われて瀕死になるような事態に遭遇しないと生まれない。 自分の意思で変化させることはできないが、一度変化すれば次からは容易に変化させられる。 自分のコントロール下には無いので、血が体からどれだけ離れられるかも、全ては心臓次第。 制約\誓約 - 備考 - レスポンス 類似能力 特質系だろこんなん -- 2015-06-12 13 20 12 コメント すべてのコメントを見る 機能変化 特質系 生体変化